お金

藤村 「お金が欲しいですか?」


吉川 「そりゃ、欲しいですよ」


藤村 「その考え方を変えないければなりません。それは難しいことじゃないんです」


吉川 「そんなこと言われても」


藤村 「自分にとってお金とは何なのかを考えてください」


吉川 「だって生活するにもお金はかかるし、楽しいことはお金がかかるし、あればあっただけ楽もできるし」


藤村 「そうでしょうか? 例えばあなたが無人島にいたとします。そして手元には100億円あります。でもどうでしょう、そのお金は意味のないものですよね?」


吉川 「助けとか呼べないの?」


藤村 「それは社会の構造がそういう風にできてこそできることでしょう。無人島では100億円があっても助けも呼べません。このようにお金自体には価値はないんです。お金が持つ効果、それを保証する社会、それがあってこそ価値を持つのです」


吉川 「はぁ」


藤村 「だからお金よりも、自分がどうしたいか、どうなりたいか、そこにフォーカスを当てます。そのためにお金が必要なこともあるし、お金以外のやり方で上手くいく方法だってあります。漠然とお金が欲しいというのは、自分の幸せが見えてない意見なのです」


吉川 「なるほど、わかりました」


藤村 「さぁ、では思考をクリアにしたところでもう一度聞きます。あなたにとって1200円とは何でしょう?」


吉川 「え? 1200円? さっきと質問が違う」


藤村 「同じことです」


吉川 「同じことなの!? 想定してたのと大分違ってるんだけど。なんか幸福への引換券的な」


藤村 「吉川さんにとって1200円とは幸福への引換券」


吉川 「すごい安い感じになっちゃったな。さすがに俺の幸福はもうちょっとするよ」


藤村 「では吉川さん、あなたにとって398円とは何でしょう?」


吉川 「いっぱい来るの? その、色々な額で質問されるって思ってなかったから。とっておきの幸福への引換券使っちゃったんですけど」


藤村 「398円も幸福への引換券ということでいいですか?」


吉川 「ディスカウントするなよ、人の幸福を。いや、だってそういう形式の質問って最初から言ってなかったじゃん」


藤村 「さぁ、あなたにとって398円とは何でしょう?」


吉川 「お弁当。ちょっと安めの」


藤村 「ではあなたにとって598円とは何でしょう?」


吉川 「刻んでくるなぁ。そんなにポンポン思いつかないよ」


藤村 「では598円もお弁当ということで」


吉川 「もうそれでいいよ。ちょっといい方のお弁当」


藤村 「では思い切って895円とは?」


吉川 「お弁当だろ! かなり奮発した方の。もうそっちが思い切ってとか言っちゃってるじゃん。お弁当基準で値段つけてるだろ」


藤村 「ではあなたにとって25ドル50セントとは?」


吉川 「急に難しくなってない? レートがわからない」


藤村 「わからないということですか?」


吉川 「わからないって答えちゃうと、今まで無理して答えてたの全部意味無くなりそうで嫌なんだけど。はっきり言って最初の1200円からわからなかったよ」


藤村 「根本的な考え方ができてないからわからなくなるんです。もう一度あの無人島を思い出して下さい」


吉川 「う~ん、25ドルってことは4000円くらいかな? もっとする? よくわからないけど。飲み会の会費くらいかなぁ」


藤村 「そのような考え方だからダメなんです!」


吉川 「ダメなのはわかってるよ。もう自分でも意味がわからないもの。なに、飲み会の会費って。お弁当だって別にそれほど欲しいわけじゃないよ。聞かれたから絞り出しただけだよ」


藤村 「いいですか? もっと視野を広く持ってください」


吉川 「まぁ、幸せってことから考えると、25ドル50セントでも幸せになることはできるし、だからと言ってそれに囚われすぎる必要もないし、ってこと?」


藤村 「違います。25ドル50セントあれば、隣の島の住人に船を出してもらえるんですよ?」


吉川 「その無人島の設定、聞いてないよ!」



暗転

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