早口言葉

藤村 「常々、早口言葉の競技性に疑問を抱いていてさ」


吉川 「競技性」


藤村 「そもそもさ、みんな素人すぎて早口言葉のスタートラインに立ってないじゃん」


吉川 「どういうこと?」


藤村 「言えるか言えないかなんてそもそもダメだろ。これから100m走をやりますって言ってるのに、走れるかどうか自信がないですってやつが参加してくるなよ」


吉川 「そりゃそうだけど。レジャーとしてカジュアルにやる人がいてもいいんじゃない?」


藤村 「100m走で? そこは最低限完走できるのは条件だろ。ランニングしたいですとか、ちょっと駆け足をしたいですみたいのは別に否定しないよ。でもそれと100m走の選手として参加するのは違うだろ?」


吉川 「早口言葉にそういう下位互換みたいのないからじゃないかな」


藤村 「早めに喋りますってことでいいじゃん。ちょっと早めに喋ってしまう慌てものですってので。言えないかもしれないけど早めに喋る楽しみは味わいたいんでって言いながら早めに喋ってればいいだろ。それを咎める人なんていないよ」


吉川 「そうだけど早口言葉って言ってもよくない?」


藤村 「真面目に早口言葉に取り組んでる人に失礼だろ! お前が一生懸命仕事してる横で『ボクもエンターキー押したことあります。一緒ですね』って言われて同じ土俵に立ってると思うか?」


吉川 「エンターキー押しただけの人の素性がわからなすぎて怖いな。別に怒りはしないけど」


藤村 「『F10キーを押して無変換にしたことあります。一緒ですね』って言われてもか?」


吉川 「その人まぁまぁパソコン使えてない? 何も知らない人はまずF10キーから覚えないよ?」


藤村 「でも同じ仕事じゃないだろ! お前の! 血のにじむような! 人生のすべてを掛けてきた仕事と一緒じゃないだろ!」


吉川 「そんな強めの思いで仕事に打ち込んでないから共感できないけど、一緒じゃあないかな」


藤村 「早口言葉はそれがまかり通ってるんだよ! 言えもしないようなド素人が一丁参加しますかみたいな感じで来るの! みんなコンマ何秒の世界で闘ってるのに!」


吉川 「そんな頂上決戦みたいのが早口言葉界にあったの知らないもの。まず言えるのは前提なのね?」


藤村 「当たり前だろ。その上での早さの勝負なんだから。100m走で……」


吉川 「もういいよ、100m走の例えは」


藤村 「棒高跳びで棒を使えないやつが参加してくるか? ない方が飛べます、みたいの。そのレベルの素人が来るなよ!」


吉川 「確かに棒をきちんと使って棒高跳びする時点でちょっと難しそうだな」


藤村 「サッカーをスタジアムを借りてやるって時に『慣れないんで、たまに手を使っちゃうんですけどすみません』ってやつ来られても困るだろ。そのレベルは各自でクリアしておけよってなるだろ!」


吉川 「まぁ、言わんとしてることはわかる」


藤村 「王様ゲームをやるのに2番か3番がどうしたらいいのかわからなくなっちゃって。ってやつが参加してきたら困るだろうが!」


吉川 「ん? 急にガクンと例えのグレードが下がったな。王様ゲーム? それは別にガチで取り組んでるやつじゃないでしょ?」


藤村 「何言ってるんだ! 王様ゲームのために世界史を専攻するやつや、立派な治世を築くために帝王学を学んでる人たちにとって迷惑だろ!」


吉川 「そいつらが迷惑だろ。なに王様ゲームに対して面倒くさい背景を持ち込んでるんだよ。王様ゲームはカジュアルな、ぶっちゃけ雑にやるやつが本場だろう」


藤村 「そんなんが世界大会で通じると思ってるのかよ!」


吉川 「あるの? 王様ゲームの世界大会」


藤村 「世界中の王が集まって覇権を競ったり5番と12番が鼻キスをしたりしてるやつあるだろ!」


吉川 「世界の王様がしないだろ。お互いにア~ンて食べさせあったりしてないよ」


藤村 「ないのか。でも早口言葉の世界大会はあるよね?」


吉川 「そんなふわふわな思い込みでここまで強く主張してたの!?」



暗転

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