あるある

藤村 「それって実は男子校あるあるでさ、めちゃくちゃよく言われるのよ」


吉川 「あ、そうなんだ?」


藤村 「なんかもう言われすぎて新鮮味がないと言うか。そうだけどなにか? みたいな感じ」


吉川 「へぇ。あ、そう言えばこの間貸した金、そろそろ返してくれない?」


藤村 「あー、それもだ!」


吉川 「なにが?」


藤村 「それもあるあるなんだよね。すごいよく言われるから今更言われてもなんとも思わない」


吉川 「は? いや、金は返せよ」


藤村 「はいはい。まぁ、そっちとしては言ってやった感があるかもしれないけど、あるあるだから」


吉川 「あるあるじゃねえんだよ。だからといって返さないって手はないだろ」


藤村 「それもだ。かぶせてきたか。もうね、いちいちツッコむのも面倒くさいくらいあるあるだから。まじで一日十回くらい聞くから」


吉川 「それはお前の素行の問題じゃない? 一日十回金返せって言われてるのはあるあるじゃなくて生活態度の話だろ」


藤村 「うわー、出た! 説教あるある! みんなそれ言う! 二言目にはそれ。聞きすぎて全然響かないから」


吉川 「いや、響かせろよ。それはお前側の問題だろ。あるあるだからノーダメージってことはないんだよ」


藤村 「いやいや、こっちの身にもなってよ? 飽きるくらいに毎日毎日同じこと言われてるんだよ? いちいち取り合ってられないだろ」


吉川 「だったら言われないようにしろって言ってるんだよ! 言われるのはお前に問題があるからだろ」


藤村 「またそれだ。もうあるあるすぎて真顔になっちゃうよ。言われがちあるある。言われがちな人、みんなそう言われてる。もうそれ擦り倒されすぎて向こう側が透けて見えるからね」


吉川 「なんで不感症みたいな感じでいられるんだよ。あるあるじゃなくて、実際に抗議として話しているんだからきちんと受け止めるべきだろ!」


藤村 「だったらお前も、言いがちなやつあるあるをきちんと受け止めろよ! 言いがちなやつあるある。まったくオチも笑いもないことを迫力だけで乗り切ろうとしがち!」


吉川 「それはあるあるじゃなくて、人間はこういう状況ではそうなるものだろ」


藤村 「だからそれがあるあるじゃん。双子あるあるだって高身長あるあるだって、そういう状況の人にとっては当たり前のことで、だからどうしたってなるだろ」


吉川 「違わない? そういうのとはさ。俺とお前の今のこの状況において適切な発言をしているだけだから」


藤村 「適切ってのはあるあるだろ?」


吉川 「そんな強引なまとめ方ある!? たとえそう思ったとしてもあるあるよりも適切の方が尊重されるべきだろ?」


藤村 「だから頻度の問題なんだよ。いくらありがたい褒め言葉でも、憎らしい悪口でも、毎日毎日飽きるほど聞かされたら感度も鈍ってくるだろ? お前はおはようございますと言われて、いえいえそれほど早くはないですよ。なぜなら私にとってこの時間帯は……、なんて生真面目に取り合うのか?」


吉川 「おはようございますのレベルで金を返せって言われてる人間性をそもそもおかしいと感じないのか?」


藤村 「はい、出た! いつもの人間性がおかしいあるある」


吉川 「それも言われてるのか。なにそれ、もう無敵になってるじゃん。マジでお前との付き合い方考えるわ」


藤村 「はいはい。付き合い方考えるあるあるね」


吉川 「もういいよ! バーカ!」


藤村 「え? 俺ってそんなにバカ?」


吉川 「それは初めて言われたのかよ!」



暗転

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