そういうやつ

吉川 「もはや誰もが巨匠と認める監督ですが、次回作は意欲的な作品だと伺いました」


巨匠 「そうだね。別に巨匠と呼んでくれと言ったわけじゃないし、勝手にそう言われてるだけだから。映画なんてものは正解がないんだから常に挑戦していかなきゃならないんです。逆に言うと、今までそうしてきたからこそ、今の私があるわけ」


吉川 「なるほど。よろしければどういった作品になるのかお聞かせていただけますか?」


巨匠 「まぁ、説明するのも難しいけどね、ある青年が時を止める能力を手に入れる話なんだ。それによって様々なことが起こる」


吉川 「それは、その、そういうやつなんですか?」


巨匠 「そういうやつって? とっつきにくいかもしれないけど、今までになかった形のエンタメになると思うよ」


吉川 「あ、いえ。すみません。時を止める能力で。なるほど」


巨匠 「そして普段はお硬い女教師が重要なキャラクターとして出てくる」


吉川 「それはやっぱり、そういうやつなのでは?」


巨匠 「そういうやつって? 時と止めるというのはある意味モラトリアムのメタファーでもあるわけだ」


吉川 「あ、そうですか。ちゃんとしてるんですね。すみません」


巨匠 「また口うるさい幼馴染やちょっと乱暴なギャルなど関わってくる」


吉川 「そういうやつじゃないですか。それで時を止めるんでしょ?」


巨匠 「つまり人間というのは普通に生きていると過去や未来と分かち難い。そんな中で純粋に今という時間と向き合うこととなるわけだ」


吉川 「そんなしっかりした考えが。女教師や幼馴染やギャルの時を止める話で」


巨匠 「例えばキミなら時を止められるならどうするかね?」


吉川 「いや、どうって。もう一つしかないんじゃないですか? そういうことでしょ?」


巨匠 「そういうことって? 時を止めてるから目の前の相手に知られることもない。ただ人間の目というのは一瞬でも写ったものを無意識下で感じ取ってしまう。サブリミナル効果などが有名だな。そういう事が起こりうるわけだ」


吉川 「ちゃんとしてるんですね! そういうやつじゃないんですね?」


巨匠 「そういうやつって? まぁ、今までの私の作品からしたらかなり重めの文芸作品となるが」


吉川 「失礼しました。全然そういうのではないですね。重めの」


巨匠 「最近はCGで処理することも多いが、やはり人の手触り感というのが大事な話なので女優たちは体当たりで頑張ってもらった」


吉川 「女優さんが体当たりで。それはもうそういうやつですよね?」


巨匠 「そういうやつって? 既存のジャンルにはない話になっていると思うが」


吉川 「そういうやつじゃない時を止める話ということですか?」


巨匠 「そういうやつって? 科学的には時が止まった中を動くのは非常に問題があるらしいのだが、今回考証で入ってくれた先生に色々と話を聞いてフィクションならではの解決法を考えたんだ」


吉川 「しっかりとしたSF考証もしているわけですね。もうそういうやつとは一線を画すような」


巨匠 「そういうやつって? もちろん、時が止まった中でなんでもできるわけじゃない。そこには代償が生じる。それとどう向き合うか。物語の中盤からは他の能力者も出てくる」


吉川 「なるほど。かなりシリアスな展開になるわけですか」


巨匠 「そう。その能力者は外からは見えないが中からは外が見えるマジックミラーの車に閉じ込めるという能力で」


吉川 「そういうやつじゃん!」



暗転

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