顔負け

吉川 「今回ミュージカル初挑戦となる藤村さんですが、歌手顔負けだったそうで」


藤村 「いえ、そんなことはありません」


吉川 「皆さん褒めてますよ。素晴らしい歌唱力だったそうで」


藤村 「いいえ。ちゃんと顔勝ちしてます」


吉川 「……はい。あの、とても歌唱力があったということで」


藤村 「勝ってますんで。顔は」


吉川 「その、顔の勝ち負けじゃなくて。それだけ素晴らしいという意味だったのですが」


藤村 「負けてるように見えます? あなたは俺の顔負けだと」


吉川 「違います違います。褒めてるんです。歌手以上だと」


藤村 「でも顔は負けてると? こっちはこれで商売してるんですが?」


吉川 「顔も勝ってます。もちろんです。とてもかっこよくて」


藤村 「無理やり俺が言わせたみたいになってるだろ。変なこと言うから」


吉川 「はぁ。変なこと言ってすみませんでした」


藤村 「ダンスも勝ってるから。踊り勝ちしてるから」


吉川 「はぁ。そうだと思います」


藤村 「まぁ強いて言えば、稽古時間かな。なにぶん他の仕事で忙しかったから。それは他の人に比べたら負けてると言うか、引き分けかな」


吉川 「あぁ、そうですか。時間が。そんなお忙しい中で歌や台詞も覚えられて」


藤村 「ただ台詞は当初より減ってるんだよ。ちょっと多すぎたからね。無理すればできないことはなかっただろうけど、最終的に仕上がりを考えたら余裕を持った方がいいって言われて。それもそうかと思ったから」


吉川 「なるほど。根負けした形で」


藤村 「勝ってるんだよ。全然負けてなかった。台詞は減っただけ」


吉川 「あ、違います。負けじゃなくて、了承したということで」


藤村 「なに? 信じてない? 見る?」


吉川 「何がですか?」


藤村 「根勝ちしてるっての」


吉川 「根勝ち。なにがですか?」


藤村 「アレだろ? デカさだろ? チンチンの」


吉川 「違います。そういう意味じゃないです。そんな意味初めて聞いたし」


藤村 「わかってるんだよ。ちゃんと根勝ちしてるから!」


吉川 「大丈夫です。信じます」


藤村 「無理やり言わせたみたいになってない? ネットで根負けとか話題になっても困るんだけど」


吉川 「そういう形の話題にはならないと思いますけど」


藤村 「そもそも誰と戦ってるんだよ? 誰基準で根負けとか言ってるんだ?」


吉川 「こっちこそ聞きたいくらいで。全然そんな勝ち負けとか関係ないので」


藤村 「お前がデカいってこと? 自信があるってことか?」


吉川 「違います。まったくそのようなことは」


藤村 「それでか? 顔は負けてるとか因縁つけてきて」


吉川 「因縁つけたわけじゃないんです。すごいなと言いたかっただけで」


藤村 「顔以外ってことだろ? 顔は負けてたと。お前の主観じゃねえか! 俺のファンとか黙ってねえぞ」


吉川 「違いますよ。言うんですよ、そういう表現があるんです」


藤村 「あろうとなかろうと関係ないんだよ! チンチンのデカさを見せつけたくて因縁つけてきたというお前の人間性のことを言ってるんだから!」


吉川 「まったく話が通じない。もういいです。こっちが根負けしました」


藤村 「無理り言わせたみたいになってるじゃねえか! 自信あるんだろ! 見せてみろよ!」


吉川 「だから違うって。そんなのの大きさで勝ち負けを競ったことなんてないんで」


藤村 「いいから見せろ、絶対に勝ってやる!」


吉川 「……はい」


藤村 「ふぅ~ん」


吉川 「もういいですか?」


藤村 「そうだな。まぁ、今回は根引き分けということで手を売ってやるけど」


吉川 「……」


藤村 「うるせー!」


吉川 「何も言ってませんが」


藤村 「顔がうるせえんだよ! バーカ!」


吉川 「勝ち気な性格」



暗転

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