皆さん

吉川 「えー、皆さんの応援のおかげでこのような立派な賞をいただくことができました。ありがとうございました」


藤村 「吉川さん、おめでとうございます」


吉川 「はい、ありがとうございます」


藤村 「一応今の発言は、私を含む皆さんのおかげで受賞できたということで言質取らせていただいてよろしいですか?」


吉川 「え、言質?」


藤村 「はい。言いましたよね? 確かに」


吉川 「え? ど、どれのこと?」


藤村 「皆さんのおかげでって」


吉川 「はい。言いました。皆さんの応援のおかげです」


藤村 「ということは、広義では私が取らせたということになりますので」


吉川 「え? あ、あなたはちなみにどちら様ですか?」


藤村 「皆さんの中の私です」


吉川 「あ、応援していただいた。ということですか?」


藤村 「はい。私が応援したおかげで賞に選ばれました」


吉川 「そうですね。感謝します。あなたも含めた多くの皆さんのおかげです」


藤村 「つまり私ですよね?」


吉川 「あの、あなたというか、皆さんです。他にもいらっしゃいますので」


藤村 「でも私がいなければ皆さんも成立しないわけですから」


吉川 「そんなことないんじゃないですか? 一人くらい欠けたところで」


藤村 「n=(n-1)が成立するということですか? では何人欠けたら皆さんじゃなくなるんですか?」


吉川 「すごい難しいこと言ってきた。もちろんあなたの応援も感謝してます」


藤村 「そうです。私が受賞させたわけですから」


吉川 「皆さんが! あなた個人ではなく」


藤村 「私は皆さんです」


吉川 「レギオンみたいなこと言い出した。感謝はしてるんですけど、個人の功績みたいに言われるとそれはちょっと違う気がするんです」


藤村 「もちろんそうです。吉川さんの功績ではない」


吉川 「え、いや。私の功績なので。私個人の」


藤村 「私の応援のおかげですよね。そう言いましたよね?」


吉川 「そうですけど、具体的に頑張ったのは私個人なので」


藤村 「あなた一人じゃ無理だわ。さすがに。それはない」


吉川 「いや、受賞してますし! 実際に! 私が!」


藤村 「それは私の応援のおかげなので」


吉川 「違うでしょ。一応形としてそう言ってるけど、実際は私個人のでしょうが!」


藤村 「さっきの発言は嘘ってことですか?」


吉川 「嘘じゃないよ。感謝をしてるのはしてる。そこは嘘じゃない。でもだからと言って皆さんの応援のおかげのみで受賞できるものでもないから」


藤村 「ほぼほぼ私のおかげだと思いますけど?」


吉川 「そんなわけないでしょ! なんなら応援がなくても受賞はしてましたよ」


藤村 「残念ながらあなたでは無理です」


吉川 「おま、応援してねーじゃねえか! むしろちょっと誹謗してるだろ」


藤村 「誰からも蔑まれるような無能を私の応援で受賞させたんですよ?」


吉川 「全然応援感がない。むしろちょっと遠くから見て嘲笑ってる感すらある。そんな中で結果を出したのは私の功績!」


藤村 「私だって本気を出せばもっと邪魔だってできたんですよ? でもそれはしませんでした」


吉川 「当たり前だろ。邪魔をするなよ。それは最悪なことだよ」


藤村 「結果的に私の行動によって受賞が決まったのは事実ですから」


吉川 「しつこいな! あなたじゃない。あなた以外の人! あなたは除外します。そんな応援は受け取らなかった」


藤村 「いいえ。どんなに拒絶しても他の人の応援に紛れて入り込みますから」


吉川 「敵側のスパイじゃん。応援を忍び込ませるなよ。そういうもんじゃないでしょ、応援って。見返りを求めるものじゃないんだよ!」


藤村 「わかりました。そこまで言うならこの賞は返上します」


吉川 「俺が受賞したんだよ。お前は関係ないのに返上する権利ないよ」


委員 「吉川さん、賞を返上ということで承りました」


吉川 「え? 委員会の人? なに? 何が起こってるの?」


委員 「『応援』を取り消されましたので」


吉川 「闇の根回しのこと!? 応援て!」



暗転

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