藤村 「やっぱり山奥ですからね。海からも遠いし、都市部からも離れている。なかなか食材の調達も難しいんです。だけどここならではの料理を提供できるんじゃないかと思ってお店を開きました」


吉川 「なんでも遠くから足を運ぶ人も多いとか?」


藤村 「ありがたいことです」


吉川 「都会の喧騒を離れた自然に囲まれた場所ならではの料理、早速頂いてみましょう」


藤村 「こちら、朝どれ野菜風のサラダです」


吉川 「あー、野菜はこちらの地元で作ってるんですね」


藤村 「それがですね。こちら地元の農家でも作ってるのですが、折り合いが悪いのでこれはお隣の県から送ってもらったものです」


吉川 「朝取ってきたものじゃないの? 新鮮な」


藤村 「いいえ、もう1週間くらい前のです」


吉川 「新鮮じゃないんだ?」


藤村 「まぁ、見た目はシナシナになってましたね。でもちゃんと朝どれ風に仕上げてます」


吉川 「風に? 朝どれではないんですね」


藤村 「どの時間帯に収穫したかはちょっとわかりませんね。一週間くらい前ですので」


吉川 「都会で食べるよりも古いんだ」


藤村 「あくまで風です。見てください、上の方は誤魔化せてますが、下の方は……」


吉川 「シナシナだ」


藤村 「これが朝どれ風です」


吉川 「よくそんな自信を持って言えるな。これはあんまりアピールしない方が良いんじゃないですか?」


藤村 「この場所ならではというのが大事ですから」


吉川 「はぁ。次はスープですか」


藤村 「はい。旅人の夢見る風彩り風スープです」


吉川 「風が多いな。一つの名称の中に風かぶっちゃったら気にならない?」


藤村 「こだわるとやっぱりそういう名前になっちゃうので」


吉川 「彩り……、全然ないけどね。茶色一色」


藤村 「あくまで風なんで」


吉川 「あくまで風だったらもう旅人のなんとかはいらないんじゃない?」


藤村 「旅人の夢見る風。これは変えられませんでした。まずこの名前から思いついたので。味は後付というか。味自体は永谷園です」


吉川 「永谷園なの? 頼り切ったの? 永谷園に」


藤村 「日持ちしますし。15秒で出せますから」


吉川 「地元で取れた野菜とか一切なく?」


藤村 「住人と折り合いが悪いので。なんか会うと石とか投げてくるし」


吉川 「どんな住人なの!? 未開の地?」


藤村 「一体何が気に食わないんだか」


吉川 「この場所ならではっていう謳い文句はどうなっちゃったの?」


藤村 「他にあります? 永谷園のやつをこんな凝った名前で出すお店」


吉川 「ここならではだなぁ、それに関しては」


藤村 「でしょ」


吉川 「羞恥心があるから。他の人は」


藤村 「続いては、ワイルド風食べられる風ジビエのデリシャス風プレートです」


吉川 「食べられる風! ということは、食べられない!?」


藤村 「ジビエはよくわからない菌などがいて危険なので」


吉川 「それを技術でなんとかするのが料理じゃないの? 食ったら死ぬんだろ?」


藤村 「いえ、死にはしないと思いますけど、重篤な後遺症が残る可能性もあるので、本当に食べる気なら責任を負わないという一筆書いてもらいます」


吉川 「じゃあ食わないよ! 余計怖いよ、重篤な後遺症は!」


藤村 「でもデリシャス風ですよ?」


吉川 「美味くもないんじゃねーか! もう風がいっぱいついてることに対してツッコみたくもなくなってきたよ」


藤村 「デザートの星屑のフルーティ風スィートドリーム風の何かでございます」


吉川 「何だよ! 風の何だよ! ものが具体的になにか分からなすぎるんだよ!」


藤村 「ええと、星屑のフルー……」


吉川 「風の前はいいんだよ! そこをいくら紐解いても何のヒントにもならないんだから! 何かは何なんだ!?」


藤村 「ちょっとこちらではわかりかねます」


吉川 「ならどこならわかるんだよ! お前の店だろ! なんか地元の住人と折り合いが悪いのも相当お前が悪いだろ! 誰もわかってないものを堂々と出してくるなよ」


藤村 「いえ、さすがにオドオドと出しました」


吉川 「出し方じゃないんだよ! オドオドだったら許せるかってならないんだよ! もういいよ!」


藤村 「ではミステリー風不思議ファンタジック風幻想の神秘風未知なる魔術風のお会計で50000円になります」


吉川 「しっかりと現実的なお値段!」



暗転

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