セクハラ禁止
吉川 「バカ言うな! セクハラ禁止法が施行されてから50年、セクハラをしたやつがどうなるか知らないわけじゃあるまい」
藤村 「そんなことはわかってる。でも考えてみろ、この50年で世界は良くなったか? 良くなるどころかますます悪くなっていく。これもそれも全部、セクハラ禁止法のせいなんじゃないか?」
吉川 「そんなことはない! 人類は確実に良くなっている」
藤村 「本当にそんなことが言えるのか! 人々は傷つけ合い、奪い合い、笑顔が失われている。こんな世界が良い世界と言えるのかよ!」
吉川 「でも! 学校ではセクハラがなくなったことで人々が幸せになったと習ったぞ」
藤村 「そんなのは為政者たちが愚民をコントロールするためのでっちあげさ。現代じゃ、こうやって有り余る性欲をスポーツで発散させられてる! おかげさまで健康だよ! でもそうじゃないだろ! 人類ってのはもっとこう、不健康な一面もあるだろ!」
吉川 「昔の人間はそうだったかも知れなけど、それは人権とかの意識も低かっただけで。スポーツも俺は悪くないと思ってるが」
藤村 「もっとなんていうか、負の側面から目をそらさずに受け入れてこその人間性じゃないのか! もうこの国はおかしくなっちまったんだ! 経済の低迷、人口の減少、気象すらもおかしくなってる。これは全部データで揃ってるんだよ!」
吉川 「だからと言って、それがセクハラ禁止法のせいとは言えないだろ」
藤村 「そうかもしれない。でも可能性は高い。かつておじさんたちはセクハラによって活力を得ていたそうだ。街には合法的にセクハラのできる店さえ存在した。今のおじさんたちはどうだ! 臭くて汚くて、いいところが一つもない存在じゃないか」
吉川 「おじさんってのはもうそういうものだろ!」
藤村 「きっとセクハラのあった時代は違ったんだよ! もっとおじさんがキラキラしていた。文化的にも多様性に満ちていた。そうに違いない!」
吉川 「おじさんがキラキラ? 正直、想像できない」
藤村 「今のおじさんたちは飼いならされた家畜だよ。奴隷だよ! あのエネルギーに満ちた時代を取り戻すにはセクハラをするしかないんだ!」
吉川 「まさかお前、セクハラ禁止法を破るつもりじゃ」
藤村 「やってやるさ。セクハラをよ」
吉川 「早まるな!」
藤村 「止めても無駄だ。俺はやってやる! やってやるんだ!」
吉川 「セクハラ監視の目はどこにでもあるんだぞ? バレずにセクハラなんてできるもんか」
藤村 「バレてもいいさ。俺は信じてる。セクハラが世界を変えるってな。そのためなら俺のこの身なんてどうなったっていい!」
吉川 「そこまでの覚悟なのか」
藤村 「もし俺がここで倒れても、いずれまた道を繋ぐものが現れる。そうやって世界を覆う欺瞞はいつか剥ぎ取られるのさ」
吉川 「藤村……」
藤村 「いくぞ? 吉川ちゃぁ~ん」
吉川 「俺にするのか? あんまり心の準備ができてないんだが」
藤村 「人類の未来のためだ」
吉川 「まぁ、そんな風に言われたら断れないな」
藤村 「いくぞ? 吉川ちゃぁ~ん。背筋がピンと伸びてるじゃな~い?」
吉川 「……ん?」
藤村 「あれ? おかしいぞ。何の警告も起きない! ひょっとして許されたのか?」
吉川 「いや。今のは、セクハラじゃなかったんじゃないか?」
藤村 「まさか! これ以上のことを言えっていうのか? 昔の人はそうだったのか」
吉川 「多分。もっとどぎつかったんだよ」
藤村 「信じられん。今の発言だってレーティングで言えばR70以上だぞ?」
吉川 「レーティングは18以上は数が増えても関係ないんじゃない? 70は逆に枯れてそうだし」
藤村 「吉川ちゃぁ~ん。挨拶が元気じゃなぁ~い?」
吉川 「言い方は気持ち悪いな。それだけは伝わる」
藤村 「おかしい! もしやセクハラ禁止法なんてすでに形骸化してるのか?」
吉川 「そんなバカな話はあるか。今のもセクハラじゃないんじゃないか?」
藤村 「そんなに基準が厳しいの? もうないぞ?」
吉川 「俺の感じだとまだいけそう」
藤村 「吉川ちゃぁ~ん。パーを出したらチョキで勝っちゃうよぉ~」
吉川 「ハラは感じるがセクが感じられない」
藤村 「チョキって言ってるのに?」
吉川 「チョキにそんな思いを託してるのすごいな。一般的にもそんなにセクじゃないよ」
藤村 「そうか。セクハラをするなんてしょせん俺みたいな凡人には無理な話だったんだ」
吉川 「飼いならされちゃってるなぁ。この時代に」
藤村 「しょうがない。今まで通りスポーツに打ち込むしかないのか。でも最近手首が痛くて」
吉川 「あぁ、それね。グリップを握る時はこう包み込むように。ぐわぁ!」
藤村 「吉川ー!」
暗転
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