死ぬしかない

藤村 「もうダメだ。死ぬしかない!」


吉川 「何を言い出すんだ。バカな考えはやめろ」


藤村 「じゃあどうすればいいんだよ? このまま生きていていいことなんてあるのか?」


吉川 「そりゃ、いつかはあるだろ」


藤村 「とてもそんな風には考えられないね! 自分で自分のことはよく分かるさ。俺みたいな人間はこの世界に必要とされてないんだよ」


吉川 「そんなこと……」


藤村 「ほら、お前だって言い淀んでるじゃないか。いいんだよ。もう決めたことだ」


吉川 「だからって早まるなよ」


藤村 「この足で食べ放題に行って、脂肪分の高めのものから食べていって脳梗塞で死んでやる!」


吉川 「食べ放題?」


藤村 「そうさ。俺みたいなやつにはお似合いの死に様さ」


吉川 「そんな致死性の食べ放題はないだろ」


藤村 「もう覚悟はできてる。血栓ができるまで何度でも足を運んでやるさ」


吉川 「それは死にたい人じゃなくて食いしん坊な人だな」


藤村 「だったらラーメンもキメてやる! スープまで全部飲んで高血圧で死んでやる!」


吉川 「長いんだよ、予定が。確率の問題になっちゃうし、死んでやる人が立てる計画じゃない」


藤村 「わかったよ! だったら、ふぐを食べて死んでやる!」


吉川 「ふぐを?」


藤村 「そうさ。ふぐ刺しだってふぐちりだって。早速予約を入れてやる!」


吉川 「ちゃんとしたお店で? 絶対に安全じゃん。自分で釣るとかならともかく。イチかバチかでもないよ。日本のふぐ料理の安全性なめるなよ?」


藤村 「確かに今は旬じゃないな。冬のために今から予約しておくか」


吉川 「死ぬ気は全然ないよね? 少なくとも冬まで。いや、冬以降も」


藤村 「そんなことない! もう生きる希望もないんだ!」


吉川 「そうとは思えないな。割りと希望に満ち溢れてない? 美味しいもの食べることしか考えてないじゃん」


藤村 「最後の晩餐ってやつさ」


吉川 「連日食べ放題に通う最後の晩餐なんてある? 王侯貴族だってしないよ?」


藤村 「死んじまえばみんな一緒さ」


吉川 「だったらもうちょっとささやかなもので死に向き合わない? なんか楽しそうなんだよな。羨ましいくらい」


藤村 「俺なんかどうなったっていいんだよ! スイーツビュッフェで甘いものに囲まれて挙げ句太りすぎて死ぬのさ」


吉川 「それがダイレクトな死因になるって難しいんだよ。もっと真剣に死に向き合うなら他にあるでしょ」


藤村 「他にどんなレジャーがあるっていうんだよ!」


吉川 「レジャーで? レジャー限定で聞いてるの? 楽しみを優先してるじゃん。相当生きたがってない?」


藤村 「わかったよ! この猛暑だ。このままジリジリと照りつける中、じっくり焼いたバーベキューを食べて熱中症にでもなるさ!」


吉川 「楽しそう! そんな人生送りたかったよ」


藤村 「この身なんてどうなってもいいさ。熱々の肉を食べたらキンキンに冷えたビールで一気に冷やして内臓をぶち壊してやる!」


吉川 「確かに身体に良いとは言えないけど、それを楽しみに生きてる人多くない?

 やりたいことなんだよ。むしろそれのために生きてる人もいるよ」


藤村 「死を覚悟した人間を見くびるなよ? もう破れかぶれだ。ココイチの辛さ15のカレーだって水無しで食ってやる!」


吉川 「ユーチューバーみたいなことするな。完全に人生を楽しみだした人のコースに乗ってるけど?」


藤村 「そんなことない! もうどうなったっていいんだよ!」


吉川 「全然よくなってないだろ。なんか羨ましくなってきたよ。俺もお前みたいに生きたい。考えてみればしなくていい我慢ばっかりしてたな。一緒にビュッフェ行く?」


藤村 「いいだろう、道連れだ」


吉川 「いや、死ぬ気はないけど。あ、近くで中華フェアやってるよ? ほら、青椒肉絲とかある」


藤村 「うげ、ピーマンじゃん! そんなんよく食えるな」


吉川 「意外と苦味がいいんだよ。美味いぞ?」


藤村 「マジかよ。どんな味覚してるんだ。あんなん食ったら死んじゃうよ」


吉川 「なら食えよ!」



暗転

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