撮影

藤村 「もっと言い方があるじゃないですか?」


吉川 「言い方って言われても、普通こうじゃないですか?」


藤村 「そんなわけないでしょ。何年この仕事してるんですか」


吉川 「えぇ。14年になりますけど」


藤村 「割とベテランなのに。撮影ですよね?」


吉川 「撮影です」


藤村 「もっと気持ちを盛り上げてくださいよ! いいよー、とか。きれいだよー、みたいの」


吉川 「必要ですかね?」


藤村 「撮られる方の身にもなってくださいよ! そんな仏頂面でカメラ構えられて。全然テンション上がらねえっつーの!」


吉川 「わかりました。はい。いいですよー。撮ります」


藤村 「堅い! なにその業務的なお声掛けは」


吉川 「業務ですから」


藤村 「あのね、何を撮るのかわかってるの?」


吉川 「レントゲンです」


藤村 「でしょ!?」


吉川 「はい。レントゲンってこういうものですけど」


藤村 「全然わかってないよ! 例えばグラビアの子の露出をもっと上げたいなと思ったらどれだけ気持ちを上げていくか、調子づかせるかが大事じゃないですか」


吉川 「そうなんですか? あんまりその世界は知りませんけど」


藤村 「知らなくても想像つくでしょ! レントゲンって言ったらもう、下着よりももっと脱ぐわけでしょ?」


吉川 「脱ぐっていうか、中っていうか」


藤村 「そうだよ! もう裸以上の部分を撮るわけだから! こっちも恥ずかしいけど気持ちいい、くらいの状態に持って行ってよ」


吉川 「別に気持ちは関係ないと思いますけど。写りさえすれば」


藤村 「そんな意識で今まで撮ってたの? あなた賞とか無縁でしょ」


吉川 「ないですから、賞とか」


藤村 「これだけ毎日裸以上の被写体を撮り続けて、無冠っていうのはもう仕事に対する意識が低すぎる」


吉川 「応募する場所がないですもん。守秘義務があるし」


藤村 「もっと褒めて褒めて褒めまくって、被写体を開放的にして!」


吉川 「開放しなくて大丈夫です。レントゲンですから」


藤村 「胸の内までさらけ出したい気分にさせて!」


吉川 「写りますから大丈夫です。動かないで下さい」


藤村 「もっとポーズとか要求して!」


吉川 「はい、息を吸ってー、止めます」


藤村 「もっと!」


吉川 「喋らないで。息を止めてくださいー。はい、結構です」


藤村 「もっと! 煌めかせて!」


吉川 「もう結構ですよ。台から降りてください」


藤村 「ノッてきた!」


吉川 「降りてください」


藤村 「内なる情熱が溢れ出しそう!」


吉川 「内臓だけで結構ですから。余計なもの出さないでください」


藤村 「美の女神が微笑んでる!」


吉川 「いいから降りて。服を着てください。お疲れ様でした」


藤村 「いいの? 今なら凄いショットが撮れるよ?」


吉川 「凄いショットは別に必要ないんですよ。レントゲンに」


藤村 「誰も見たことない表情が撮れるかも知れないんだよ?」


吉川 「誰も見たことないモノが写ってたら大問題ですよ。即入院です」


藤村 「この持て余した衝動はどこにぶつければ?」


吉川 「お持ち帰りになって結構ですよー」


藤村 「それはそれで家じゃどうしようもない!」


吉川 「あれ? ちょっと待ってください。藤村さん、ここになんか怪しい影が出てますね」


藤村 「やはり孤独とか悲哀がでちゃってますか?」


吉川 「性格とは関係なくて。レントゲンは占いじゃないんで」


藤村 「なんかこの黒っぽくなってるやつですか?」


吉川 「そうです。これはあんまりいいものじゃなさそうですね」


藤村 「じゃあ加工して盛っておいてよ」


吉川 「一回きちんと検査した方がいいと思います。できれば頭の方も」



暗転



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る