神にも悪魔にも

吉川 「この力を使えば、キミは神にも悪魔にもなれる!」


藤村 「俺が悪魔に!?」


吉川 「神にも、悪魔にも、だ。それだけの力がある」


藤村 「俺が悪魔に等しい力を好き放題にできるだなんて!」


吉川 「なんで悪魔になろうとしてるんだよ。神になれよ! くれぐれも悪魔にならないように忠告してるんだ!」


藤村 「でもせっかくなれるのに……」


吉川 「せっかくで悪魔を選ぶなよ!? そんなところでもったいない精神を発揮するな!」


藤村 「二つあるとどっちも試したくなっちゃうから」


吉川 「神と悪魔だぞ、どっちも試すとかじゃなくない? 神になれるんだぞ?」


藤村 「オプションで?」


吉川 「基本が悪魔で神がオプションじゃないんだよ! どっちかというと悪魔がオプションだよ! オプションっていうのもおかしいけど」


藤村 「まぁ、ならなくてもいいってことですよね。神なんて」


吉川 「ならなきゃダメだよ! そっち優先なんだから!」


藤村 「じゃあ最初に一回だけやってみて、合わなかったら悪魔ってことでもOKなんですよね?」


吉川 「合わなかったらってなんだよ! 合わせろよ、自分を! 神の方に! そう努力しろよ!」


藤村 「あんま興味ないし」


吉川 「持つだろ普通、興味を! どっちかと言ったら神方面に傾けよ!」


藤村 「ちょうど今日、黒い服着てるし」


吉川 「コーデ的に選ぶなよ! ファッションインフルエンサーかよ! 今日は悪魔コーデ、じゃないんだよ! もっと切実な選択だと認識しろよ!」


藤村 「とりあえず神にはなるけど、週末だけ悪魔とかっていうのもアリ?」


吉川 「ナシだろ! なんでアリかなって思っちゃえるの? そんなレジャー感覚で悪魔になられたら周りの人が対応するのしんどいだろ!」


藤村 「なんなら逆でもいいけど。ウィークデイは悪魔で」


吉川 「そういう問題じゃないんだよ! 神になる力っていう前提で言ってるんだから! 悪魔にもなれるっていうのは、悪魔になっちゃうこともあるから気をつけなさいよという忠告なんだよ。あくまで忠告!」


藤村 「でもわざわざ言うからには、そっちを選ぶ人にも配慮してますよってことでしょ?」


吉川 「そんなわけねぇだろ! 家電の取扱説明書で『感電の恐れがありますのでおやめください』って注意書きがあっても、感電もできるのかラッキー! って思わないだろ!」


藤村 「説明書読まないタイプなので」


吉川 「タイプ関係ないよ! わかるだろ言ってることくらい!」


藤村 「感電もできるの?」


吉川 「そっちに引っ張られるなよ! 何なんだよ! 良心とかないのかよ!」


藤村 「あれ? どこ行ったかな。家出た時はあったはずなんだけど」


吉川 「そんな折り畳み傘みたいな軽率な良心を持つなよ! 肌身はなさずにいろよ!」


藤村 「そのうち出てくると思うから、それまでは悪魔で過ごすしかないか」


吉川 「悪魔をとりあえずの間に合せで使うなよ! 良心をしっかり胸に抱いてるやつにしか与えられないんだよ、力は」


藤村 「あー、あったあった! ありました良心。ちょっと肝臓の影に隠れてて見えなかった」


吉川 「そんな物理的にないだろ! 嘘くさいんだよ。お前にはないだろ」


藤村 「おっと気をつけて。足元に雑草が生えてるから踏まないように。その雑草も大切な命だから」


吉川 「良心を演出するために発言するなら雑草呼ばわりやめろよ! 雑草という草はないんだよ!」


藤村 「実際に神になってさ、なにかメリットとかあるの?」


吉川 「メリット・デメリットで考えるなよ! そういうもんじゃないだろ! なんでもコスパで判断するのネットの影響受け過ぎだよ!」


藤村 「逆に聞くけど、やりたい放題できるのはどっち?」


吉川 「その悪魔前提の質問で誘導するのやめろよ! そもそもやりたい放題したいっていう思想をなんとかしろ!」


藤村 「わかった。じゃあ、神になる。今までのはちょっとしたお茶目。最初から神になるって決めてた」


吉川 「本当に? 神の気まぐれとして処理するには生々しい思想が見えてたけど」


藤村 「若輩者ですが神として頑張っていきたいと思います」


吉川 「もうこうなったら委ねるしかないけど」


藤村 「よし! 今から私は暴虐の神となる!」


吉川 「多神教で乗り切るなよ!」



暗転

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