経験
吉川 「大まかに言えばこんなところだが、なにか質問はあるかな?」
藤村 「すみません。童貞だからよくわかりませんでした」
吉川 「ん? よくわからなかった? どの辺りが」
藤村 「全体的にですね。童貞なので」
吉川 「うーん、ちょっと待って。童貞かどうかはこの際関係ないですよ。そういう話では全然ないから。具体的にどの辺りがわかりませんでした?」
藤村 「もうほとんどの部分が。ボクが童貞なばっかりに」
吉川 「だから童貞は関係ないって! 童貞だからわかりませんでしたってのは、普通の授業においてありえないから。なんかそういう女教師の特別な授業のやつでしか通用しないよ」
藤村 「すみません、童貞で」
吉川 「別に怒ってないよ! 怒ってたとしても、童貞に対して怒ってはいないよ。そんなのはどうだっていいことだから。生徒に対してそんなことを気にしたことないから」
藤村 「でもボクが童貞なせいでこんな自体になってるわけで」
吉川 「童貞だからじゃないでしょ! 童貞とか関係ないのに童貞をやたらと引き合いに出して混乱してるのが今の状況でしょ!」
藤村 「ボクが童貞じゃなければこんなことにはならなかったんですが」
吉川 「そうかもしれないけど、たとえ童貞だったとしても普通はこんなことにはならないんだよ!」
藤村 「童貞ですみません」
吉川 「だから違うって! なんかあんまりそういうのを言わないでくれる? 私がハラスメントしてるみたいに聞こえるじゃない」
藤村 「こんなに難しい授業だとは思わなかったので、童貞のまま来ちゃいました」
吉川 「普通、童貞は童貞のまま来るだろ。何かに備えて童貞一応捨てておくかな、みたいな選択肢があるやつはそこまで童貞を引きずってないんだよ! 捨てられないからお前は童貞なんだろ!」
藤村 「そんなひどいことを言われるとは思いませんでした」
吉川 「いや、今のは悪かった! 今のはハラスメントになりかねない。そういう事が言いたかったわけじゃないんだが」
藤村 「こうして傷つくのもボクが童貞だからなんですよね」
吉川 「そりゃそうだけど、別に気にしなきゃいいじゃない。こっちは気にしてないしキミ以外の誰も気にしてないよ!」
藤村 「気にはすると思います」
吉川 「本人としては気になっちゃうかもしれないけど。だけど授業においてはさ、まったく関係ないことだから。こっちも仕事でやってるんだから童貞か童貞じゃないかなんて考えたことないし」
藤村 「でも童貞じゃない人はみんな理解してるみたいですし」
吉川 「そんなことないよ。童貞じゃなくてもわからない人もいるだろうし、童貞でも理解してる人はいる」
藤村 「誰ですか?」
吉川 「具体的に? 知らないよ! 生徒の童貞に関して把握してないから」
藤村 「じゃあ、童貞で理解してるとかわかるわけないじゃないですか。なんで適当なこと言ったんですか」
吉川 「……確かに適当なことを言ったように聞こえるかも知れないけど、おそらく間違ってないんだよ。本人が童貞かどうかはわからないけど、授業の理解度はそれとは全く関係ないという話をしてるんだから」
藤村 「そういうのであれば生徒にアンケートをとってもいいですか?」
吉川 「どういうこと? 童貞か童貞じゃないかの? その回答を集めてどうするんだよ。どこにも活きないデータじゃん」
藤村 「そこまで言うなら童貞と童貞じゃない人と同じ課題だというのはおかしいと思います」
吉川 「どこまで言った? 何も言ってないよ? 童貞かどうかに関して言及してないよ? 課題はみんな一緒。そんなことで差異はつけられない」
藤村 「処女でもですか?」
吉川 「やめてくれない? まだ童貞はファニーさあったけど、処女かどうかを言い始めたら本当に社会的な問題になりそうだから」
藤村 「それは男女差別ですよね」
吉川 「そうかもしれない。軽率な誤った発言だった。謝罪はするけども、そもそもがさ、男も女も関係なく、そういうのはないって話をしてるんだよ」
藤村 「納得いかないですけど。わかりました」
吉川 「ではフランシス・ベーコンの経験論はここまで。次回はルネ・デカルトの方法序説です」
暗転
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