神楽
藤村 「確かにここも過疎化が進んでる。村の青年団も最年少が47歳だよ。だからといってよりによって大事な巫女をねぇ」
吉川 「なら他に方法はありますか? 誰がやりたがるんですか、この村で巫女なんて」
藤村 「お金で解決しようっていう考えが神様に対して申し訳ないというか」
吉川 「なら全部やめちゃえばいいんです。神楽も」
藤村 「それはいけない! 毎年楽しみにしてる村民はいるし、なにより伝統がある」
吉川 「だったら妥協するしかないでしょ。派遣で呼んだコンパニオンにやってもらうしかないですよ」
藤村 「いや、しかしなぁ。巫女をするからにはこの村の風習というのをきちんと理解してもらわないと困る。そこまでできるかね? 金で雇った娘に」
吉川 「そもそもですよ? 必要ですか、そんなこと。表向き、ガワだけ誤魔化せさればいいじゃないですか。たった一日のことなんだから」
藤村 「それはいけない。いけないよ! 我々はいいよ、村の者たちはそれで納得するかもしれないが、神様に対して失礼だろ」
吉川 「そういう考えで雁字搦めになってるのがおかしいというのです。神様が本当に望んでいるなら、この村の若い娘が望むような神楽になってるでしょ。時代にあってないんですよ。形だけ取り繕ったようなものをするしかない現状というのが神様が望んだこの村なんです。受け入れないと」
藤村 「しかし伝統が……」
吉川 「伝統、伝統って、だったら伝統と心中したらどうですか? 神楽だって巫女だって未来のためにやるものでしょうが。過去しか見ずに行うことこそ神楽のことをなにもわかってない!」
藤村 「そうか。受け入れるしかないか。ちなみにこのオプションってのはつけていいのか?」
吉川 「予算内だったら多少はありでしょうね」
藤村 「このメガネってのは?」
吉川 「大丈夫です。メガネ入れておきますか?」
藤村 「恐らく神様も望んでるんじゃないかと思う」
吉川 「そうでしょうね。巫女とメガネで二翻ですから」
藤村 「あとこのミニスカってのは……」
吉川 「そこなんですよ」
藤村 「そこかぁ!」
吉川 「ただ私も色々と調べました。この村も何度も貧しく飢えた時代を乗り越えてきた。その時にも神楽をやっていたらしいのですが、そんな時に満足に装束を揃えられましたかね?」
藤村 「まぁ、無理な時もあっただろうな」
吉川 「そうなんです。恐らく粗末な装束でやらざるを得なかった時期もあったでしょう。布の生地が足りないということも考えられる。特に昨今の不景気を鑑みるに……」
藤村 「それはむしろ伝統に則ってると言えなくはないな」
吉川 「なくはないですよね?」
藤村 「なくはない! むしろ大いに有り得る。やはり神楽は伝統と常に向き合わないといけないわけだから」
吉川 「ミニスカ巫女はありですかね?」
藤村 「村の未来のために、そうするのが正しいだろうね」
吉川 「わかりました。ミニスカ、オプションで頼みましょう」
藤村 「ちょっと気になってるんだが、このドジっ子属性というのは?」
吉川 「それはちょっと難しくないですかね? 神楽は神聖なものでちゃんとやってもらわなきゃならないんで」
藤村 「そうだな。ドジっ子属性は……なしか。ただ神様というのは、過ちを犯してしまう者も面倒見てくれる広い心を持っているとは思わないか?」
吉川 「そうですね。正しいものだけ恩恵に預かれるというのは、この時代にあってない気もします」
藤村 「今回試しに入れてみて、ダメだったら来年は外すってやりかたもあるよね?」
吉川 「ありますね。村の未来のために今年は挑戦してみるというのはいいかもしれません。このまま何もできずに過疎化していくのを見るだけじゃなく、なにか打って出るというのは大事ですよ」
藤村 「むしろこのオプションは入れなきゃいかんな」
吉川 「その通りです」
藤村 「よし! ミニスカメガネドジっ子巫女、決定!」
吉川 「異存はありません」
藤村 「それで一旦冷静になって聞いてくれるか? ここで考えるべきなのはむしろ、このシースルー巫女衣装ってのだと思うんだよ」
吉川 「そのチャレンジ精神、買いましょう!」
藤村 「未来だもんね! 未来のためチャレンジだから。絶対必要なんだよ、これは」
吉川 「いけますね」
藤村 「じゃさじゃさ、この男の娘ってのは?」
吉川 「男の娘。藤村さん、さすがにそれは……」
藤村 「ダメか」
吉川 「……来年にしましょう!」
藤村 「よっしゃ! 来年キター! やるぞー!」
吉川 「良い神楽になりそうですね」
藤村 「フゥーー! 楽しみ~!」
暗転
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