ドッキリ

藤村 「え? なに!? どうした?」


吉川 「どうしたって、普通に挨拶しただけだけど」


藤村 「あー! 挨拶か。そうかそうか。ビビった。挨拶ね、挨拶だけ?」


吉川 「他になにか?」


藤村 「ないよ! 全然ない! 他には何もない! 挨拶だけが一番!」


吉川 「どうした? なんかおかしいぞ?」


藤村 「おかしくない! 普通! いつもこうだよ! 平熱」


吉川 「いつもそんな大声でシャキシャキ話さないじゃん」


藤村 「そうだっけ?  おはようございますこんな?」


吉川 「そんな囁くようなトーンじゃないだろ。それじゃ寝起きドッキリだろ」


藤村 「えぇっ!? 違う! 絶対違う! ドッキリじゃない!」


吉川 「なに、どうした?」


藤村 「違います。本当に違うんです。ドッキリじゃないから! これはドッキリじゃない!」


吉川 「凄い必死だな」


藤村 「頼む、信じて。一生のお願い!」


吉川 「一生のお願いをこれで使っちゃうんだ? そのレベルの懇願なの?」


藤村 「どうかひとつ!」


吉川 「いや、信じてもいいけど。ということはドッキリではないってことだよね」


藤村 「……」


吉川 「なんで黙るの? おかしくない?」


藤村 「……なにが?」


吉川 「なにが、じゃないよ。嘘を信じさせるために一生のお願いを使うの?」


藤村 「今週のお願いで頼む!」


吉川 「随分ランク落としたな。毎週願いを聞き届けるシステムじゃないんだよ。そんなログインボーナスみたいな神いないだろ」


藤村 「嘘かどうかとか気にせずに信じるだけ信じてくれ」


吉川 「じゃあ嘘じゃねえか。ドッキリなんじゃないか!」


藤村 「違う!」


吉川 「違うのか? 本当に違うのか? 命賭けられるか?」


藤村 「このウェットティッシュを賭ける」


吉川 「安い! もう負けていいやつを賭けてる。ということは合ってるんだろ? ドッキリなんだろ?」


藤村 「俺がバラしたって言わないでぇ!」


吉川 「やっぱりそうなのか。なんだよ、やめろよドッキリとか」


藤村 「せめて俺以外の人のバカさで気づいたってことにして。俺だけは守ってくれ」


吉川 「凄い面倒くさいミッションにしたな。ドッキリだと気づきながら、バラされたことをしらばっくれてドッキリにかかれっていうの?」


藤村 「俺はできる限りのことはしたよ! 本当に! 昨日だって、いや、昨日は寝たけど、一昨日はあんまり寝てないんだよ!」


吉川 「知らないけど。隠すように言われてたのね、お前もお前で」


藤村 「そう。言ってみれば俺も被害者だから。お前に対するドッキリのせいで散々だよ。この状況全部がまとめてドッキリみたいなものだよ」


吉川 「このあと俺になにかあるんだろ? もうしてるのか? まぁ、あんまり聞きすぎても酷か」


藤村 「あれ? ひょっとして、俺のこの状況ってドッキリなんじゃないのか? ドッキリがバレたらどうなるドッキリを仕掛けられてるんじゃないか?」


吉川 「面倒くさいこと言い出したな」


藤村 「そうだろ! この野郎! しらばっくれやがって。俺がどんだけ焦ったか」


吉川 「俺は知らないって。何も知らない」


藤村 「ほーら! それが怪しいんだよ。さっきの俺と同じこと言ってるじゃねえか」


吉川 「同じことか? お前はもうちょっと挙動不審だったぞ」


藤村 「なに? 俺の方が騙しが上手いってマウントとってるわけ? ということは、やっぱり仕掛けてるってことだろ。あーあ、ついに自白したな」


吉川 「してないって。なんだよ、その被害妄想は。お前が俺にかけてきたんだろ!」


藤村 「どの時点からドッキリなんだ? もうわからない。最初からか?」


吉川 「最初ってどこだよ。そのポジションを俺は知らないんだよ」


藤村 「ビッグバンの頃から」


吉川 「それは誰の仕掛けなんだよ。宇宙意志みたいなのが仕掛けようとしてるのか、この時代の俺たちに対して」


藤村 「もうわからない! 何が本当だかなにもわからない! ドッキリなのかパックリなのかもわからない!」


吉川 「パックリではないよ。はまぐりか。まずじゃあお互いの情報を共有しよう。誰が何のためにどういう嘘をついてるのか」


藤村 「実は身長165cmって言ってるけど、本当は162cmしかない」


吉川 「そういうささやかな嘘はいいよ。今それを打ち明けられてもノイズにしかならない。誰が最初に俺にドッキリを仕掛けようって言ってきたの?」


藤村 「それは俺もよく知らないけど、なんかそういう空気だったから」


吉川 「どういう空気だよ。俺がドッキリに掛かってる風の空気って」


藤村 「本当はみんなお前のこと嫌いなのに、仲良くしてる風を演じてるから」


吉川 「それはお前。そのトーンで告げるなよ。薄っすら俺も感じてたけど」


藤村 「これドッキリなんだろ?」


吉川 「むしろそうであってくれ!」



暗転

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