藤村 「この国も最近は熊の個体数も増えていて遭遇する確率も高くなってます」


吉川 「そうなんだ。気をつけないと」


藤村 「まず熊は恐ろしい獣ですが、向こうも人間を怖がっているということを知ってください」


吉川 「熊の方も」


藤村 「そうです。できることなら熊だって人間になんて会いたくない。だから出会わないのが一番なんです。言うなればマッチングアプリでヤリモクの男と婚活女が出会ってしまうようなもんですよ」


吉川 「後半のたとえがあんまりピンと来ないな。別にたとえる必要なかったんじゃないですか?」


藤村 「そういう事態もあり得るので、最初から割り勘にした方がいいと思います」


吉川 「何の話? 熊は?」


藤村 「熊に関してはここに人間がいるぞ、とアピールすることが大事です。例えば鈴を鳴らすとか。こっちはヤリモクだぞというのを匂わせるように会話の端々にセクシャルな要素を紛れ込ませる感じで。会う前にカップサイズだけは聞き出しておきたい」


吉川 「その後半の感じがまったくわからないんだよ。混乱するから二度とマッチングアプリのたとえを忍ばせないでくれ」


藤村 「大きな声で歌を歌うのも効果があります。上手くいけば熊の方からハモってくることもありますし」


吉川 「どういう状況? 熊が? 歌好きの熊じゃん。メルヘンに出てくるやつだろ、それ」


藤村 「一番良かったのは私と熊三匹でボヘミアン・ラプソディ最後までハモったときかな」


吉川 「それは歌いきったなー。ボヘミアン・ラプソディ、人間とだってちゃんとハモれない。というか、ハモリの正解が分かりづらい曲」


藤村 「あとよく言われる死んだ振りというのは意味がありません。熊は追い打ちかけてきますから。結構しつこ目の死体蹴りをしてくるので絶対一緒に格ゲーとかしたくないタイプ」


吉川 「する機会ないと思いますけど」


藤村 「熊を山の神とするところもありますから、言ってみれば彼らの方が格が上なんですよ。タメ口効くのもちょっとどうかと思う」


吉川 「タメ口以前にコミュニケーション取れないでしょ。熊とは」


藤村 「愚かな人間風情が熊とコミュニケーションを取ろうだなんて烏滸がましいですね」


吉川 「チョイチョイ熊目線なの何なんだよ」


藤村 「そもそも愚かな人間はすぐ熊を頼ろうとするじゃないですか!」


吉川 「してる? 熊に対して?」


藤村 「大体いつも熊に会うと『いやぁ、クマったクマった』みたいに困り果てて」


吉川 「そんなベッタベタなダジャレ言う人しかいないの? おじさんしか熊と遭遇しないわけ?」


藤村 「熊側はいつもしょうがないなと思いながら、二度と困らないように安らかにさせてあげてるんですよ」


吉川 「親切心で!? あれは親切の介錯だったの? その煩悩を断ち切るような親切、火力が強すぎない?」


藤村 「そもそも熊の方にしてみても土地問題や食糧問題など、大変なんです」


吉川 「そうかも知れないけど、人間社会も大変だから」


藤村 「もっと熊権にも配慮して欲しい」


吉川 「人権みたいな。熊に権利与える余裕ないよ、こっちには」


藤村 「いいえ。ゆくゆくは熊にも選挙権を与えるべきです」


吉川 「熊に? 判断力ないでしょ、熊には」


藤村 「人間にはあるんですか?」


吉川 「そんな海外のスタンダップコメディみたいな辛口、急にぶっこまないでよ」


藤村 「ただこれ、悪い話じゃないと思うんです。最近は熊の個体数が増えて困ってると言ったでしょ?」


吉川 「それは聞きましたけど」


藤村 「政治家の得意分野じゃないですか。人口を減らすの」


吉川 「薄ら社会派ぶったコメント!」



暗転

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