ついていく

藤村 「こんばんは。終電なくなっちゃいましたね」


吉川 「え、あ、はい。ってか誰?」


藤村 「突然ですが、家ついていってもいいですか?」


吉川 「あ! あれの!? あの番組のやつ?」


藤村 「ご存じです?」


吉川 「知ってます、知ってます。わー、本当にやってるんだ。あの番組ですよね?」


藤村 「そうです。あの番組みたいなことやってます」


吉川 「みたいなこと。番組じゃない? カメラ撮ってないし」


藤村 「番組というか活動ですね」


吉川 「活動って何? 家についてきて、どうするの?」


藤村 「それだけです」


吉川 「あなたが?」


藤村 「はい。私一人なんで安心してください」


吉川 「嫌だよ! 怖い! なに? なんで家についてくるの?」


藤村 「終電もなくなっちゃったんで」


吉川 「あなたが個人的に家に来るだけ? 見ず知らずの私の?」


藤村 「そこまでわかってれば話は早いですね。では行きますか」


吉川 「いや、行かないよ! 話が早いって別に了承したわけじゃないんだよ。撮影でもなんでもないんでしょ?」


藤村 「はい。撮影するとどうしてもプライバシーとか蹂躙されて嫌じゃないですか? 私はそういうこと一切しません。あなたのプライバシーを全力で守ります」


吉川 「なら家に来ないでよ! それが一番プライバシー侵害なんだよ」


藤村 「撮影された方がいいんですか? あんなの家の場所とかバレてそのあとに強盗に入られたり、ご近所にあらぬ噂がたってその街には住めなくなりますよ?」


吉川 「そんな言いがかりみたいな後日談ないだろ。プライバシーは確かにあれだけど、逆にそういう自己顕示欲みたいのが満たされて嬉しいんじゃないの?」


藤村 「そこまでいうなら撮影してもいいですけど。私のSNSのフォロワー、全部合わせて7ですよ?」


吉川 「個人でやろうとしてる? 7人に向けて。別に撮影してほしいわけでもなくて目的が分からなすぎて気持ち悪いんだよ」


藤村 「逆にあなたは家に帰るのに目的なんてあります? 明確な意志を持って家に帰らなくてはと毎日考えてるんですか?」


吉川 「そこまで意識はしてないけど。私が自分の家に帰るのとは違うでしょ。あなたにとっては他人の家なんだから」


藤村 「その辺はあんまり気にならないタイプなんで」


吉川 「お前のタイプは知らねーよ。気にしろよ! 他人の家だぞ?」


藤村 「でも自分の家だったらあんまり大きな物音をも立てられないし、食べ物とかもこぼしたりできないじゃないですか?」


吉川 「うちでやるつもりかよ! ダメだよ! 絶対に連れて行かないよ! なんでうちならやってもOKって思ってるんだよ」


藤村 「いやいや、OKとは思ってないですけど、最悪そうなったところで私が怒られるわけじゃないでしょ?」


吉川 「そうだよ! 俺が怒られるんだよ! 俺はなんで怒られなくてもいいところで他人の罪をかぶって怒られなきゃいけないの?」


藤村 「あ、怒られるのダメなタイプですか?」


吉川 「普通ダメだろ。ちょっと好きですってやつはいないんだよ。たとえマゾヒストだとしても近所の人や管理人に怒られるのがたまらないなんてやつはいないよ! ただションボリするだけなんだよ!」


藤村 「わかりました。だったらそういうことのないように気を引き締めてついていきますので安心してください」


吉川 「怒られなきゃいいって話にすり替わってない? そもそも来るなって話だろ?」


藤村 「でもこんな話滅多にありませんよ? いいんですか、この希少なチャンスを逃して?」


吉川 「すごい詭弁を使ってくるな。そりゃないだろ。ないけどそれは非常識だし、誰も喜ばないからされてないだけでしょ? 嫌なことは希少であってもチャンスとは言わないんだよ」


藤村 「でもこの間こんな事があってさぁ、なんて話題にできたりしますよ?」


吉川 「もうこの声をかけられてる時点で十分話題として盛り上がれるよ。家についてくるくだりはいらない。あと他人にエピソードトークの心配までされたくない」


藤村 「わかりました。ではそろそろお時間ということで次のお友達を紹介していただけますか?」


吉川 「システムを柔軟に切り替えるんじゃないよ!」



暗転

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