不適切

藤村 「本日の試合は実況藤村、そして解説には昨年現役を引退した吉川さんに来ていただきました。吉川さん、よろしくお願いします」


吉川 「はい! よろしくお願いします」


藤村 「どうですか、現役生活を終えてこうして解説席にお座りになったお気持ちは?」


吉川 「そうですね、現役時代は正直、好き勝手言いやがってと腹の立つことも多かったんですが、こうして発言するとなると結構責任があるというか、緊張しますね」


藤村 「吉川さんは本日初解説ということですが、現役時代にもバラエティ番組などで人気がありました。その辺りの持ち味を活かした解説を期待しております」


吉川 「頑張ります!」


藤村 「さて試合の方は序盤、ワンナウト走者が二塁。バッターは四番の主砲笹咲という場面になりました。吉川さん、このあたりはどう見ますか?」


吉川 「はい。笹咲は最近当たってますから。ここは一発が出るかも知れませんよ?」


藤村 「そうですか。はい、ただいま不適切な発言がございましたことをここにお詫びします」


吉川 「え」


藤村 「さぁ、笹咲追い込まれました。ここはランナーを進めておきたいところ。どうですか?」


吉川 「そうですね。長打を警戒してカウントが進んでたんですけど、ここは勝負かもしれませんね」


藤村 「はい、ただいま不適切な発言がございましたことをここにお詫びします」


吉川 「え? 私? 私が?」


藤村 「はい」


吉川 「どれですか? すみません慣れてなくて。どれか言ってくれないとまた言っちゃうかも」


藤村 「それはまぁご容赦願いたいのですが。なるべく気をつけてください」


吉川 「どれ? ちょっと教えてもらえません? 音切って」


藤村 「どうやら笹咲、短く持ち直しましたか?」


吉川 「あ、はい。バットですか?」


藤村 「ただいま不適切な発言がございましたことをここにお詫びします」


吉川 「バットだめ? バットだめならもうどうにもならないと思うけど? 野球でしょ? バットが不適切なの?」


藤村 「吉川さん、ちょっと!」


吉川 「あ、すみません。そういうルールなんですか? 今まで言ってませんでした?」


藤村 「なるべく卑猥な表現は避けていただかないと」


吉川 「卑猥のつもりないんだけど」


藤村 「おっとダブルプレー。笹咲、大事な場面で倒れました。ここでグランド整備が入ります。さぁどうでしょう、吉川さん。ここまでの流れは?」


吉川 「はぁ、これからだと思います」


藤村 「なんか少し元気がなくなりました? ところでチアリーダーたちがダンスを披露してますが、現役時代はこういうのを見てむしゃぶりつきたくなったりしましたか?」


吉川 「え? 何その質問。そんなことないですよ」


藤村 「いやいや、野球選手は夜もお強いと聞きましたよ?」


吉川 「あの、不適切ではないんですか?」


藤村 「軽いフリートークなんで」


吉川 「どういうこと? なにこれ? ネットの番組? あの品がなくてゴールデンタイムでは無理だろうなっていう芸人とセクシー女優が織りなす世界一おもしろいバラエティ番組のあのやつ?」


藤村 「いいえ、あのやつではございません」


吉川 「なんだよ、あのやつって。アナウンサーならちゃんとした言葉で言いなさいよ。さっきの不適切言葉狩りはなんだったの?」


藤村 「あれはちょっとさすがに。テレビの前で気まずくなっちゃいますから」


吉川 「なっちゃう!? バットとか言って?」


藤村 「そんなチンポのメタファーみたいな発言は控えてくださいよ」


吉川 「言ってる! お前が言ってる! 直で! それ不適切じゃないの?」


藤村 「どの辺りが問題なんでしょうか?」


吉川 「どの辺りって言えないよ! 言ったらそれが不適切じゃないか!」


藤村 「初めての解説で少し興奮されてるようですね。では試合再開です。さてここからの展開ですが、どう不適切になると思いますか?」


吉川 「やっぱりあのやつじゃん!」



暗転

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