ツイ

藤村 「ツイッターが終わってしまう!」


吉川 「そうなの?」


藤村 「なんか、色々制限ができて満足に見ることもできない状況なんだ」


吉川 「一応アカウントは持ってるけど、あんまり見てないな」


藤村 「お前には理解できないことだろうが、本当に大変なことが起こってるんだ!」


吉川 「ふ~ん」


藤村 「ふ~んて! よくそんな人の心のないリアクションができるな! この一大事に」


吉川 「大変だろうけど、俺は直接被害受けてないから」


藤村 「いいか、じゃあ共感しやすいように一つ例をあげよう。ここに一人の港区女子のアカウントがある。これが消えてしまったらもうこの女性はこの世から消えてしまうんだ!」


吉川 「そんなことないだろ。やってる人は残るんだから」


藤村 「やってる人は俺なんだよ! でも俺は言ってなかったかも知れないけど港区女子じゃないんだ」


吉川 「言われなくてもそれはわかるよ。なんでそんなアカウントやってるんだよ」


藤村 「そんなアカウント!? この健気に生きておじさんたちに愛を振りまいてる港区女子に対してよくそんな口がきけるな!」


吉川 「中身はお前だろ! 港区女子とか関係ないんだよ」


藤村 「わかってないんだよ! この子は苦労人なんだから。今はキラキラした港区女子になってるけど、ここに来るまでには紆余曲折があったんだよ! 最初はJKのアカウントから始まったんだから」


吉川 「初手でちょっと様子がおかしいな。お前は男だろ。むしろもうおじさんだろ!」


藤村 「いいや! JKアカを始めた頃はまだおじさんじゃなかった」


吉川 「まぁまぁおじさんの入り口だっただろ。なんでそんなアカウントをやってるんだ」


藤村 「なんで? じゃあお前はなんで生きてるんだ?」


吉川 「その理屈とイコールなの? 哲学の小道に迷い込むくらい根源的な理由で?」


藤村 「JKだったそりゃもう時は大変だったよ。中間テストや期末テストの結果だって気にしなきゃいけないし。大人になると時間が過ぎるのなんてあっという間じゃない? 本当にテストはすぐ来るから。修学旅行に学際にイベントも多いしさ。ツィートするスケジュールがキツキツなのよ」


吉川 「なんでそんな思いまでしてやってるんだよ」


藤村 「やっぱり人々の夢を背負ってるからさ。JKアカウントってのはそういうものじゃん?」


吉川 「知らないよ。見たことないもん。しかもJKじゃないだろ。JKを騙ってるおっさんのアカウントだろ」


藤村 「本物のJKは意外と雑なんだよ! やっぱり幻想を抱えてる人じゃないと望むようなフィクションは体現できないんだ。これは専門職の領域だよ」


吉川 「おじさんの演じるJKをおじさんが見て癒やされてるの悲しすぎるよ」


藤村 「そしてJKアカはどうあがいても3年しか運用できないんだ。卒業というタイミングで初めて俺は人生の岐路に立たされた」


吉川 「初めて岐路がそれ? いない人の岐路だろ。お前自身の岐路に立てよ。好きなようにやればいいだろ。ツイッター上の人格なんだから。言ったもん勝ちだろ」


藤村 「大学進学も考えたけど、勉強もあんまり好きじゃないし、なによりも母子家庭で家があんまり裕福じゃなかったから」


吉川 「設定だろ? 自分で勝手に考えた。テキトーなこと言ったせいで雁字搦めになっちゃってるじゃん」


藤村 「それで夜の世界に踏み込んだってわけ。もちろん簡単な世界じゃないとは覚悟してたけど、思った以上に大変でストレスは溜まるし肌だって荒れたさ」


吉川 「何に対するストレスを誰が受けたの? お前自信になにか影響があったのならもう辞めときな。なんかそれはそれで新しい病名がつきそうな感じだから」


藤村 「軽い気持ちで通ったホストクラブにハマっちゃって大借金よ。生活は荒んでいき、そしてついに身体も壊して入院することになった。そんな時に出会ったのが……」


吉川 「どうせ都合のいいキャラに救済させるんだろ」


藤村 「この、青汁」


吉川 「PRアカウントだったの!?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る