強がり

藤村 「なんか赤くなっちゃってさ」


吉川 「ひょっとして、金属アレルギーなんじゃない?」


藤村 「はぁ!? この俺が? そんなわけないじゃん!」


吉川 「でもそれつけてからでしょ?」


藤村 「この俺が金属アレルギーに見える? バカにすんなよ」


吉川 「別にバカにはしてないよ。アレルギーは誰でもなりうるものだし、ならないから凄いというわけでもないよ」


藤村 「そうなの? でもなんかパーみたいなイメージない?」


吉川 「パー? 頭が?」


藤村 「あの人、ハサミに負けちゃうんだ的な」


吉川 「ジャンケンの? 金属アレルギーの人をパーみたいと思ったことないよ」


藤村 「なめられんじゃねーの?」


吉川 「なめられないよ! なめる方がどうかしてるよ。アレルギーに対して蔑むような視線は人としてどうかと思うよ」


藤村 「そうなの? じゃあもう毎日水銀がぶ飲みしてるとか嘘言わなくていいの?」


吉川 「そんな嘘ついてたの? それはそれで怖い。なんか別の生命体の可能性があるから変な目で見られてもしょうがない」


藤村 「鎖帷子とか着れなくても平気?」


吉川 「いつ着る機会が訪れるの? 今日のドレスコードは鎖帷子ですってパーティはないよ。あったとしたら絶対に出席しないほうがいいよ」


藤村 「そうなのか。あとチョコミントも苦手なんだけど、それも平気?」


吉川 「ん? どういうこと?」


藤村 「チョコミント。なんか不味いじゃん? 歯磨き味じゃん?」


吉川 「それは全然アレルギーとは別の話だよね?」


藤村 「あ、違うの? じゃあ今のなし。チョコミントは好んで食べるぜ。週8で食べる」


吉川 「別にどっちでもいいけど。そんなの気にしてるの可愛いな」


藤村 「はぁ!? 全然だけど? なめんじゃねえぞ? 背中にチョコミントのタトゥぎっしりだぞ!」


吉川 「そのレベルでなめられるのが嫌なんだ? 背中にチョコミントのタトゥぎっしり入れてるの、未知の皮膚病みたいで気持ち悪いな」


藤村 「昨日も三食チョコミントだったわ。丼で。おかわり自由だったから」


吉川 「そんなチョコミント専門店ある? むしろそんな店に通ってたら可愛げ出ちゃってるだろ」


藤村 「結果的になめんのかよ。じゃ、どういうスタンスが正解なんだよ!」


吉川 「別にチョコミントに対するスタンスの正解はないでしょ。自分の思った通りで接してればいいよ」


藤村 「バカにするじゃねえか! 一番なめられない、人としての格の高いチョコミントの立場はどれなんだよ!」


吉川 「チョコミントに対する立場で人の格は決まらないよ。むしろそんな小さいことをいちいち気にしてない人間が一番大きく見える」


藤村 「あー! なるほど。そういうことか。むしろ気にしない感じね。はいはい。掴んだわ」


吉川 「何かを掴んだのか。ちょっと病的にプライド高そうだけど大丈夫か」


藤村 「さっきお婆さんが信号渡れずに困ってたけど全然気にしなかったわ」


吉川 「それは気にしろよ。気づいてる癖に気にしないの意地が悪いだろ。人に言わない方がいいよ」


藤村 「どっちなんだよ! 気にしないならOKじゃないのかよ!」


吉川 「ケース・バイ・ケースだろ。気にした方がいい場面だってたくさんあるよ」


藤村 「お婆さんをいちいち気にしてるやつ、器小さくない? 大丈夫? お婆さんなんて戦闘力からしたらゴミだよ?」


吉川 「人の価値を戦闘力で決めるんじゃないよ。しかもゴミ呼ばわりするな。そのか弱い生命を助けてあげることによって格が上がるって考えられない?」


藤村 「あー、なるほど。逆にそれもありなのか」


吉川 「逆じゃないけどな。赤ちゃんに勝ったって自慢してるやついたら、むしろ最低だって思うだろ? そういうことだよ」


藤村 「赤ちゃんには流石に負けんが?」


吉川 「負けないだろうけど、勝ってもダメだろ。勝ち負けを競ってる時点で人間が小さいんだよ。あえて負けてやる器量ってのもあるだろ」


藤村 「なるほど。あえてか。わかったぜ」


吉川 「あとそれ、金属アレルギーっていうか、カミソリ負けしたんじゃないの?」


藤村 「……っ!? まぁ、カミソリのやつもああ見ててなかなかやるからな。将来楽しみだぜ」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る