褒め方

藤村 「人を褒めるのって難しいからな。俺はアーノルド・シュワルツネッガーが好きだからアーノルド・シュワルツネッガーみたいって言われたら嬉しいけど、そう言われても嬉しくない人もいるみたいだし」


吉川 「特にアーノルド・シュワルツネッガーは適用範囲が激せまだと思うよ? だいたいお前のどこがアーノルド・シュワルツネッガーみたいなのか全然わからないし。痩せてるのに」


藤村 「油断するとすぐ笑えないレベルのどぎついシモネタを言うところとか」


吉川 「アーノルド・シュワルツネッガーってそうなの? 知らないわ、そのアーノルド・シュワルツネッガーのパーソナリティ。アーノルド・シュワルツネッガーみたいっていう人はほとんど見た目のことを言ってると思うよ?」


藤村 「この間もさぁ、坂本龍馬みたいですねって褒めたつもりなんだけど『わしはそれほどでもないぜよ。家に帰れば洗濯物も溜まってるぜよ』って言ってたし」


吉川 「それは合ってるな。その人は確実に坂本龍馬好きだろ。それ以上的確に褒める言葉多分ないよ」


藤村 「そうかなぁ? ちなみにお前はなんて褒められたい?」


吉川 「自分をなんて褒められたいか答えるのって異常に恥ずかしいな。常日頃から思い描いてる願望みたいのが透けて見えて。これは本心を言えないかも」


藤村 「それはある! 俺も本心ではシルベスター・スタローンみたいって言われたいんだけど、そんなこと言って『お前がシルベスター・スタローン?』みたいに思われたら恥ずかしいから、ついアーノルド・シュワルツネッガーって言っちゃって」


吉川 「それ変わってる? 正直、俺の感覚からするとどっちもどっちな気がするんだけど」


藤村 「スライは監督も脚本もするし、根っからの映画人だからさ。ただアーニーのキュートなコメディセンスも憧れはするんだよな」


吉川 「そ、そうなんだ。そこまでの解像度で見てなかったわ。なんだろ、意外と無難なところで犬っぽいとか猫っぽいとかは割りと褒め言葉として汎用性あるんじゃない?」


藤村 「かも知れない! お前も口元よだれでビシャビシャなところとか犬っぽいよな」


吉川 「全然褒めてない! よだれでビシャビシャじゃないだろ! 犬だってそこに関しては指摘しないでくれって思ってるよ」


藤村 「あとなんかお前って落語家っぽいよな」


吉川 「あ、それは褒め言葉になるかもな。言い回しとか」


藤村 「顔とか」


吉川 「顔はそれぞれだろ! 落語家の顔ってのはないよ! 我こそすべての落語家の概念を集結した存在みたいなラスボスはいないだろ」


藤村 「髪型も落語家っぽい」


吉川 「それぞれなんだよ! 落語家を代表する髪型ってないんだよ! 落語家の誰々みたいな髪型ならわかるけど、落語家全体を統括する髪型はない!」


藤村 「前科も落語家っぽい」


吉川 「それに関してはそれぞれとも言えないよ! なんで前科ある前提なんだよ。ない落語家の方が圧倒的に多いだろ。あるにしても一種じゃないよ。なにより俺には前科はないよ!」


藤村 「なんか蕎麦代をちょろまかしたりするところとか」


吉川 「話の中のことだろ! 落語家の罪じゃないよ! 先日あったエピソードトークしてるわけじゃないんだよ! あと俺は蕎麦代をちょろまかしてないよ!」


藤村 「ユーモアのある皮肉を言ったつもりだけど、狭い世界で生きてるせいか本人の認識が幼稚過ぎて炎上しがちなところとか落語家っぽい」


吉川 「誰かだろ! それは落語家の中の誰か個人のことだろ! 全落語家を代表してディスるんじゃないよ! むしろそんな人少ない方だよ!」


藤村 「口元がよだれでビシャビシャなところとか落語家っぽい」


吉川 「既出だよ! さっき言ったやつだろ。落語家もビシャビシャな人いるかも知れないけど、話す商売だからしょうがないだろ! 犬でダメだったけど落語家ならいけるか? みたいなチャレンジをしてくるんじゃないよ! 伏線回収して落語家みたいなこと言うなよ」


藤村 「なんでそんなひどいこと言うの?」


吉川 「最初から褒め言葉と思ってなかったのかよ!」




暗転

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