変な話

吉川 「変な話さぁ、外国の人が日本人のことを『礼儀正しい』とか褒め称えるの、なんか日本が勢いあった頃、途上国の人を見て『心が綺麗』とか言ってたのと同じような感じに思っちゃうんだよ」


藤村 「うん。……で?」


吉川 「あぁ、うん。それだけなんだけど。なんかちょっと見下してる感情があるっていうか」


藤村 「はぁ? それだけ?」


吉川 「あ、ごめん。こういう話題ダメだった?」


藤村 「いや、違う。変な話は?」


吉川 「え? なにが?」


藤村 「変な話をするんだろ? 今の話からどう変な話につながるの?」


吉川 「いや、え? どういうこと?」


藤村 「変な話だけどって言ったじゃん。どう変な話をするんだよ?」


吉川 「違う。変な話ってのは、そういうのじゃなくて。ちょっと物議を醸しそうかなと思って予防線を張ったと言うか」


藤村 「結局変な話は?」


吉川 「変な話はないけど」


藤村 「ないの!? ふざけんなよ! こっちは変な話を期待して聞いてたのに! 弄ぶなよ!」


吉川 「変な話を期待してたの? 変な話って何?」


藤村 「それを聞きたかったんだろ! どんな変な話か」


吉川 「言った俺が悪かったけど、そんなに人って変な話しなくない?」


藤村 「だから楽しみだったのに! お前は俺の変な話欲を刺激しておいて、しょーもない話をしてお預けを食らわしたんだよ! この人でなし!」


吉川 「そこまで? なんかゴメン」


藤村 「本当だよ! もう何一ついいことがないよ!」


吉川 「あ、そういえば……」


藤村 「あるのっ!? 変な話?」


吉川 「違う、この間さぁ」


藤村 「変な話じゃないのかよ! 今の流れは絶対に変な話を思い出した感じだろ! 思い出し変だっただろ!」


吉川 「そんな思い出しは聞いたことないけど」


藤村 「お前もう、これから話をする時は『変じゃない話をするけど』って前もって予告してから話せよ」


吉川 「そんな人いる? この世の人はほとんど変じゃない話をしてない?」


藤村 「でもお前は変な話をする詐欺をした前科があるだろ! 一度犯したものは罪を重ねるものなんだよ!」


吉川 「罪じゃないでしょ。言うじゃん、変な話さって。そんなに非難されるような導入じゃないでしょ?」


藤村 「じゃあ俺が『これは巨乳のヤラせてくれそうな女が出てくる話なんだけど』って話始めて巨乳の女が意外としっかり者だった場合、どういう気分なんだよ!」


吉川 「どうでもいい気分だよ。思春期じゃないんだから。『え? 巨乳のヤラせてくれそうな女だって? じゅるり』みたいな食いつき方しないよ」


藤村 「それはお前の性的指向の問題もあるから。例えが悪かった。『貧乳の風紀委員長が弟がそのゲームやってるからちょっと教えてくれない? って話しかけてきた話なんだけど』って言って、風紀委員長がメガネすら掛けてなかったらどういう気分なんだよ!」


吉川 「気分はないよ。無だよ。その話を聞いて抱く感情を俺は持ちあわせてないよ。別にメガネあってもなくても無。真顔で聞く」


藤村 「嘘だろ。じゃあ、どこが琴線に触れるんだよ。もうないだろ」


吉川 「その二つで? 二つで全人類の興味を制覇したと思ってた? 世界はもっと多様性に溢れてるもんだぜ?」


藤村 「だからその変な話をしろって言ってるんだよ! こっちは絞り出した二エピソードでやり繰りしてるんだから」


吉川 「二しかないのか。それは渇望するよな。変な話ハンターになるのも致し方ない」


藤村 「わかってくれたか」


吉川 「どうでもいいことだけど、なんでその二つのエピソードなの? 実体験?」


藤村 「それは人づてに聞いたんだよ。……で?」


吉川 「でって何?」


藤村 「どうでもいいことは?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る