のど自慢

藤村 「のど自慢ってすごくない?」


吉川 「漠然とした褒め方するな。すごいってどの辺りが?」


藤村 「だってのど自慢だよ? 自慢を競技化したもの。のどに関するマウントを取り合うんだよ?」


吉川 「別にマウントを取り合うわけじゃないだろ」


藤村 「だって自慢だよ? もうその時点でマウントの取り合いじゃん。お前ののどに比べたら俺ののどはタワマンの高層階だぜ? みたいな陰湿なやり取りが行われるんだよ」


吉川 「名称はそうだけど、自慢はしあってないんじゃない?」


藤村 「自慢しないやつはのど自慢に出ないよ。そんなのど謙虚はヒトカラでただ美声を奏でてるだけ。のど自慢に出てるのは、高慢で虚栄心の塊で他人ののどがちょっとでも褒められるのが我慢ならないという攻撃的な性格の人間のみ!」


吉川 「だからカラオケ大会じゃない? 言ってみれば。ただ大会名をひねってあるだけで」


藤村 「じゃあ、大きなビート板に乗って屁の推進力で速さを競う競技のことを尻自慢って言われたらどんな気分だよ!?」


吉川 「何その競技? そもそもそんな競技自体がないでしょ」


藤村 「俺の尻はお前の尻とは比べ物にならないぜ、ってマウントを取り合ってさ。そういう人間がいると競技をやってる人全員がそういう目で見られるから迷惑なんだよな」


吉川 「いないだろ、競技人口。なんで割としっかりとした連帯感もってるんだよ。そんな競技の時点で変な目で見られるのは覚悟しておけよ」


藤村 「選手たちはまじめにやってるんだよ! 怪我のリスクも高い上に熟練の競技者が高齢化してることも問題になってる。中には尻の毛を永久脱毛してしまったために普通の日常生活を送れなくなったものだっているんだよ!」


吉川 「死ぬほど無駄な問題意識! 今日の晩ごはん悩むよりも無意味! なんだよ、尻毛を永久脱毛して日常生活を送れなくなるって。送れるだろ、日常は! 尻毛があろうとなかろうと!」


藤村 「お前はツルツルの尻をしてスーパーに行ったりできるのか?」


吉川 「できるだろ。なんでそこで抵抗が生まれてるんだよ。恥ずかしいの? 私って尻がツルツルなのにお野菜買ってる。あら、冷凍餃子が安いわ、でも尻の毛がツルツルなのにどうしましょう。とか? 関係ないだろ!」


藤村 「お前、割と尻に対する意識が高いな? ひょっとして……」


吉川 「やってないよ! そんな奇妙な競技はやろうとしたこともないよ! なんだよ、尻に対する意識って!」


藤村 「こういうのは才能がすべてだから、意外と初心者でもとんでもない記録を出したりするし」


吉川 「いざなうなよ! やらないよ! 大きなビート板に乗って屁の推進力で速さを競う競技は絶対にやらないよ!」


藤村 「印象だけで競技の良し悪しを判断するんじゃないよ! だったら相撲はどうなんだよ! 裸のデブがベタベタ抱き合ってるって言われたら日本人なら悲しい気持ちになるだろ!」


吉川 「そ、そりゃそうだけど。よく屁で進む競技をそのシリアスな表情で語れるな」


藤村 「まぁ、まじめに取り組んでる選手を尻自慢なんて揶揄するような風潮にだけはならないで欲しいよな」


吉川 「言ってることは良識っぽいけど、実際ないだろ? その競技は」


藤村 「わからないぞ? この世には思いもよらない競技がたくさんあるから。たとえば脇をキュッと締めることで屁みたいな音をさせる競技とか」


吉川 「なんだよ! その脇自慢は!?」


藤村 「おいおい! 命がけで取り組んでる脇アスリートに対して脇自慢なんて言い方だけは許さないぞ!」


吉川 「命がけで屁みたいな音を鳴らそうとするなよ!」



暗転

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