心霊スポット

吉川 「マジで怖い。マジで。もう進みたくない」


藤村 「いいけど、進まないでそこにいる方が嫌じゃない?」


吉川 「帰ろ? 得るものがないじゃん。勇気っていうのはもっと大切な時のためにとっておこう?」


藤村 「凄い饒舌になるな。別に大したことないだろ」


吉川 「なんかあったらどうするんだよ?」


藤村 「なんかあるかもしれないから行くんじゃない。何もなかったらそれこそ行った意味がないだろ」


吉川 「わかった。帰りにケーキを食べよう? それがなんかってことで」


藤村 「それだったら最初っから心霊スポットじゃなくてケーキ屋に誘うよ」


吉川 「もう俺ダメだよ。無理。全部が怖い」


藤村 「気にし過ぎなんだよ。別にただの廃墟だよ。ただの壁にただの朽ちた家具」


吉川 「え? なんか今音鳴らなかった?」


藤村 「ただのガタガタおじさんだろ。気にするなよ」


吉川 「待って。なに、ガタガタおじさんて」


藤村 「ガタガタ鳴らせるおじさんだよ」


吉川 「え? なに? 有名な概念なの? なに? それはオバケ?」


藤村 「おじさんだよ」


吉川 「おじさん? おじさんがなんで心霊スポットにいるの?」


藤村 「そんなこと言ってもしょうがないだろ。誰だってギャルの方がいいと思ってるよ。でも皆おじさんじゃん。電車で臭いのもおじさん。酔っ払って大声上げてるのもおじさん。店員に文句言ってるのもおじさんだよ。世の中の嫌なものは全部おじさんなんだよ」


吉川 「そうじゃなくて。おじさん何してるの?」


藤村 「知らないよ。おじさんの意志なんてわからないよ。お前はぶつかってくるおじさんがどんな理屈で突然ぶつかってくるかわかるのか? おじさんってのはもうそういう生き物なんだよ」


吉川 「違う違う。おじさんの気持ち悪さと別の話をしてるんだよ。それは霊なの?」


藤村 「おじさんだよ」


吉川 「飲み込めない! おじさんだよ、という理屈で納得できないよ。なんでそんなおじさんがここにいるの?」


藤村 「だからおじさんのやることなんて知らないよ」


吉川 「知らなくてもさ、おかしいと思わない? おじさんがこんなところにいて」


藤村 「思うよ。路上で寝てるおじさんだっておかしいと思うし。電車の中で大声で怒鳴ってるおじさんだっておかしいと思うよ」


吉川 「一緒なの? 一緒のおかしさでそれをパッケージしてるの? 心霊スポットでガタガタ鳴らせるおじさんを?」


藤村 「どう違うんだよ。おじさんの時点でもうわけのわからない行動理由しかないんだから」


吉川 「そうかも知れないけど、おじさんってそんなオールマイティな説明になるの?」


藤村 「もちろん普通の問題のないおじさんがほとんどだっていうことは理解してるよ。俺だって年下の子からみたらもうおじさんだよ。ただわけのわからないおじさんがこの世に存在してるという事実は覆せないだろ?」


吉川 「わけのわからなさのバージョンが違わない? 心霊スポットでガタガタ鳴らせるおじさんのわけのわからなさは、俺の生活してる文化にいないタイプだったんだけど」


藤村 「心霊スポットに来ないからだろ」


吉川 「いるんだ? 割と全国の心霊スポットに」


藤村 「おじさんなんて全国津々浦々にいるよ。お前は逆におじさんがいない場所を知ってるのか? おじさん禁制の地なんてないんだよ! 女性専用車両にだって現れるんだから」


吉川 「おじさんの変さで森羅万象を説明できるってことなの? いいの、それで?」


藤村 「良い悪いはこっちが決められることじゃないだろ。おじさんに関してはしょうがなく受け入れるしかないんだよ。悪いって言ったところで消えてなくなってくれるわけじゃないんだから」


吉川 「そんなこの世の罪をすべて背負った禍々しき存在がおじさんなの?」


藤村 「だーかーらー。別にほとんどのおじさんは無害なんだって。ただ意味不明な困ったおじさんがいるってだけだろ。別におじさんを差別するつもりなんてないよ」


吉川 「なんか全然納得いかないけど、受け入れるしかないのか。うわっ! 何だあの人!?」


藤村 「あれは無害なただのおじさんだよ」


吉川 「心霊スポットに佇んでる無害なただのおじさんは余計怖いだろ!」



暗転



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