三刀流

吉川 「野球の大谷選手すごいねぇ」


藤村 「いやぁ、それほどでもないですよ」


吉川 「お前が謙遜するの? 大谷選手のなんなの?」


藤村 「何かって言われたら、まぁ色々話すと長くなるんだけど」


吉川 「短く言って」


藤村 「短く言えば他人」


吉川 「それはもう長く言う必要ないんだよ。他人という関係性をいくら解像度上げても繋がることはないんだから」


藤村 「まだ現在ではね。でもほら、将来的にはライバルになりうる存在かも知れない」


吉川 「何に対するライバル?」


藤村 「もちろん野球の」


吉川 「野球で? お前、野球やってたの?」


藤村 「俺はね、こう見えても始めた時から三刀流だった」


吉川 「三刀流。投手と打者とあとなに? 監督?」


藤村 「とーしゅ? それはどんな手?」


吉川 「投手は投手だろ。ピッチャー」


藤村 「あの、居酒屋でビールいっぱい頼んだ時に出てくるデカいやつ?」


吉川 「そっちを先に思い浮かべるの? 野球の話してたのに」


藤村 「聞いたことないな。新ルールかな? 俺は伝統的なやつだから」


吉川 「野球だろ? 何の話? じゃあお前の言う三刀流ってなんなの?」


藤村 「グーとチョキとパーだけど」


吉川 「それはじゃんけん! 野球と全く関係なし! 意味もわからん」


藤村 「こっちこそ意味がわからない。グーもチョキもパーも使わずに野球できる? それはただ脱ぐ人じゃない?」


吉川 「……野球拳のことを言ってるの?」


藤村 「そうだよ? お前は逆に何の話をしてたの?」


吉川 「最初から野球拳の。大谷選手の話から始まったのに」


藤村 「よく知らないけど、その大谷選手ってのは野球の二刀流なんだろ? すごいよな」


吉川 「野球拳の選手じゃないよ?」


藤村 「そうなの? じゃあなんの?」


吉川 「野球の!」


藤村 「野球って野球拳を省略した言い方じゃないの?」


吉川 「野球が最初にあるんだよ! 野球拳はそのスピンオフっていうか、はっきり言って関係があるのかすらよくわからない!」


藤村 「へぇ、野球っていうゲームもあるんだ? 何を脱ぐの?」


吉川 「脱がないよ。脱ぐ行為のスラングが野球じゃないんだから」


藤村 「でも二刀流って、俺も前に試したことがあるんだけど。もちろんグーとパーのね」


吉川 「野球拳で? それはバカなんじゃないの?」


藤村 「まぁやり方次第だけど、結構シビアな戦いになるな」


吉川 「相手に二刀流ってバレたらもう勝てないだろ」


藤村 「いや、お前が思ってるよりも全然奥深いから。まず素人は最強がグーだと思いがちじゃない?」


吉川 「いいや? グーチョキパーでどれが最強って思ったことはないよ?」


藤村 「でも鍛え上げられたグーはパーすら粉砕するってよく言うじゃない?」


吉川 「言わないよ。初めて聞いたよ。パーを粉砕したらそれは暴力だよ。じゃんけんのルールじゃない」


藤村 「だからそれは競技者目線であって、素人はそう思いがちじゃん」


吉川 「俺は別に野球拳の選手じゃないけどな。素人というか、そう考えるのはバカなんじゃないの?」


藤村 「素人ってバカだからさ」


吉川 「断言したな。ものすごい暴れん坊な一手をビシッと断言しちゃったな。普通そんなことは思ってても言わないぞ」


藤村 「だから大事な場面ほどグーに頼りがちになる。そんな時のためにどれだけパーを鍛えておくかだから」


吉川 「鍛えるとか何なんだよ。パーはパーで個体差ないだろ」


藤村 「でも俺のパーは160は出るからね」


吉川 「160キロ? なにそれ? 時速?」


藤村 「標高。160cmくらい。もう慎重2mの人の出すパーと同じ位置から出てくるから。頭グワシィって掴む勢い」


吉川 「高いところから出てくるんだ。パーが。だからなに!?」


藤村 「怖いだろ? 急に目の前にパーが出てきたら」


吉川 「怖いし、なにより野球拳に対してそんな奇策を使うほどのめり込んでるやつの人間性が怖い。関わり合いになりたくない」


藤村 「まぁ、あくまで二刀流ってのは話題としてはホットだけど、突き詰めれば三刀流になると思うよ?」


吉川 「突き詰めなくても野球拳はみんな三刀流でやってるよ」


藤村 「まぁ、その大谷選手とも手合わせしてみたいもんだ」


吉川 「絶対に相手してくれないと思う。なんのメリットもない。キャリアの汚点にしかならない」


藤村 「どうかな? 俺が勝って彼も甲を脱ぐかも知れないぞ?」


吉川 「意外と考えオチみたいなこと言うんだな」



暗転

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