風林火山

藤村 「名言があるじゃない? 風林火山て」


吉川 「名言じゃないけどな。ことわざ? いや、違うな。なんなんだろう? 格言?」


藤村 「知らん。人名っぽくもある」


吉川 「人名ではないけど。そんな名前のやつマンガだろ。ライバル高校の番長キャラかよ。元々は武田信玄のアレだろ? ドラマのタイトルにもなってる」


藤村 「武田信玄ってのも人名っぽい」


吉川 「人名だよ。それは。今始めて気づいたの?」


藤村 「信玄なんて餅以外に使うことあるんだ?」


吉川 「そこから来てるんだよ。餅は信玄から派生してるんだから。あー、今調べたら元は孫子の兵法だって。なるほどな。それを引用したのか。武田信玄ってインテリだな」


藤村 「風林火山って全部意味があるんだよ。この間うろ覚えしたんだ」


吉川 「うろ覚えしたのか? ちゃんと覚えればいいのに。わざわざうろで覚えたの?」


藤村 「俺の実力ではうろ覚えが限界だった」


吉川 「なんか悲しいこと聞いちゃったな。ゴメン」


藤村 「なんだっけなぁ。静かなること風の如し? 林は……静かなること林の如し? で、静かなること山の如し」


吉川 「全部静かだな」


藤村 「焚き火を見てチルすること火の如し」


吉川 「一番静かじゃなさそうな火もなんとか静かに着陸させたな。うろ覚えなりに頑張ってる」


藤村 「でもいい言葉だなぁと思って。俺もこれからちょくちょく使っていこうかなって」


吉川 「いい言葉として感銘受けてるやつ珍しいよ。うろ覚えのくせに」


藤村 「俺の考えたオリジナルの風林火山聞きたい?」


吉川 「考えちゃったの? 風林火山は普通、風林火山として受け止めるものだから、あんまりオリジナルのを考える人いないと思うけど」


藤村 「だってほら、結局うろ覚えだから」


吉川 「長所として活かしてるなぁ、うろ覚えを。ぜひ聞かせて欲しい」


藤村 「俺のオリジナルのカレー風林火山。タイ風なること風の如く、カレーかと思いきや辛くないことハヤシの如く、辛味10倍なること火の如く、大盛りなること山の如し」


吉川 「うん。……で?」


藤村 「終わり」


吉川 「あ、別に教訓みたいのがあるわけじゃないんだ? 言うだけなの?」


藤村 「言うだけ。美味しそうだなって思うだけ」


吉川 「ごめん、もっと孫子の兵法なりの、すごいためになることが隠されてるのかと思って。あと完全にハヤシライスから発想してない?」


藤村 「林がもうハヤシライス以外ないから」


吉川 「だよね。ハヤシライスに引っ張られ過ぎだよね」


藤村 「そんなに言うなら、お前の聞かせてよ」


吉川 「ないよ。人は誰しもオリジナルの風林火山を心に抱えて生きてるわけじゃないからね」


藤村 「でもあったほうが良くない?」


吉川 「思ったこともなかったよ。自分の風林火山があればなぁ、なんて。風林火山をそんなに身近に感じたことなかったから」


藤村 「武田のことあんまり好きじゃない?」


吉川 「クラスメイトみたいに言うな。歴史上の人だろ。同じ世界観の人物だとそもそも感じてないんだよ」


藤村 「お前はほら、インターネット大好きだから。すぐ調べるし」


吉川 「インターネットが好きなわけじゃないよ。なんだよ、そのざっくりとしたカテゴライズは」


藤村 「あれでしょ? 馬脚を露した人とか皆で指さして笑うのが楽しいんでしょ?」


吉川 「偏見! ネットの人全員そんなんだと思ってる?」


藤村 「風評被害を与えること風の如く」


吉川 「ネットの嫌な側面!」


藤村 「草生やすことww林の如くwww」


吉川 「人間性が地べたを這ってる」


藤村 「炎上させること火の如く」


吉川 「なんの捻りもなく、まるで古くから言われてる言葉みたいだ」


藤村 「しいサイトを見る時はブラウザのシークレットモードで履歴が残らないようにするし、広告ブロックで見やすくすること山の如し」


吉川 「さてはインターネット大好きだろ?」



暗転

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