霊能

藤村 「うわっ! この部屋は怖いな」


吉川 「あ、もうですか? わかります?」


藤村 「これはマズイですよ」


吉川 「もう本当にこの部屋に引っ越してからというもの、変なことばっかり起こって」


藤村 「でしょうね。これは一刻も早く手を打たないと大変なことになります」


吉川 「やっぱり何か霊的なものが?」


藤村 「センスです」


吉川 「センス? センスってシックスセンスみたいな?」


藤村 「いや、インテリアのセンスです。壊滅的です」


吉川 「そこは別に助言を求めてないところなんですけど」


藤村 「これはひどい」


吉川 「いいじゃないですか。別に好きでやってるんだから」


藤村 「いや、これはおそらく何かの影響を受けてますね」


吉川 「霊的な?」


藤村 「ファッションインフルエンサーとかの」


吉川 「うるせーな! 別に誰の影響受けてようが関係ないだろ」


藤村 「多分北欧系の家具でオシャレにしようとしたんだけど、実家から持ってきたような黒くてデカい家具と相性がチグハグで、ただ落ち着かない部屋になってる」


吉川 「もっと霊関係のアドバイスくれない? そこはいいんだよ」


藤村 「よくないでしょ」


吉川 「よくはないよ! よくはないけど、自覚してるんだよ! これ合わないなーって思いつつも捨てるに捨てられず騙し騙しやってるんだよ。人間ってのはそういうものだろうが。計算通りに生きられるわけじゃないんだよ!」


藤村 「生の声が溢れ出ましたね。霊もビビるくらいの」


吉川 「あんた、そういうのわかるっていうから来てもらったのに」


藤村 「だってさ、こっちが関西風出汁のうどんです、こっちが関東風出汁のうどんです、みたいな見極めをする目の前にウンコおいてあったらそれどころじゃないじでしょ?」


吉川 「ウンコよりはマシだろう! 同列に扱うなよ」


藤村 「まぁ、だいぶこのインテリアにも目が慣れてきたんで、ちょっと見てみますけど」


吉川 「頼むよ。なんか夜中に変な音もするしさ」


藤村 「うわぁ。ありますね。やっぱり」


吉川 「え? なにか見えます?」


藤村 「はい、これを見てください」


吉川 「は? なにもないじゃないですか。やっぱり素人には見えない何かが」


藤村 「よく見てください。陰毛です」


吉川 「うるせーな! 全部うるせーな! なんなんだよ! しょうがないだろ一本くらい。落ちるよそりゃ」


藤村 「ここにも!」


吉川 「目ざといな。何の能力なんだよ。なんでその距離から的確に陰毛をサーチできるんだよ」


藤村 「こっちの身にもなってくださいよ。こんなキショい部屋に連れてこまれて、陰毛見せつけられて。厄災といってもいい」


吉川 「それはゴメンだけど。でも今回は俺由来のことは目を瞑ってくれ。俺以外の、霊の。霊がなんかこの部屋に対してやってることを指摘してくれ」


藤村 「ここまでだと、どこが境界だかわからないんですよ。この気持ち悪いカバンは違うんでしょ?」


吉川 「俺のカバンだよ。なんだよ、気持ち悪いカバンって! カバンに対して気持ちいいとか気持ち悪いとかってないだろ! カバンはそんな印象抱く方向に多様性はないんだよ!」


藤村 「化粧水とか乳液とか転がってるのも気持ち悪い。そんなテッカテカな面して」


吉川 「大きなお世話過ぎるんだよ。お前に指摘されなくても自覚してるんだよ! それでも挫けずにスキンケアし続けてる心意気を褒めてもらいたいくらいだ!」


藤村 「おや、これは? あぁ、まずいですね」


吉川 「またちん毛?」


藤村 「違います。毛は毛でも長い毛。女性の髪の毛ですね。これはマズイですよ。絶対にこの部屋にあるわけないのに」


吉川 「決めつけるなよ! 女性が来ることもあるだろ!」


藤村 「殺した女性の死体を処理するために?」


吉川 「物騒すぎるよ! 生きた、女性が! 愛ゆえにここにたどり着くこともあるだろうが!」


藤村 「ないです」


吉川 「なんで今日一の力強い断言をここでするんだよ! あるんだよ!」


藤村 「申し訳ないですけど、おそらく全て霊ではなくあなたの妄想だと思います」


吉川 「全てで雑に処理するなよ!」



暗転

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