スタバ

藤村 「お前、今なんて?」


吉川 「スタバ。飲まない?」


藤村 「俺の勘違いじゃなければ、スタバというのはスターバックスコーヒーのことか?」


吉川 「そんなしっかり名称を日常で言うやつ珍しいな」


藤村 「行こうっていうの? そのスタバに?」


吉川 「そこにあるから」


藤村 「そこにはあるよ。そこにあると行くってのはもう全然違うだろ。死後の世界だって一歩踏み出せば行けるけど行かないだろ」


吉川 「死後の世界と比べるようなものじゃないだろ」


藤村 「お前わかってる? スタバってのはさ、コーヒーが1000円くらいするんだぞ? この何十年も賃金の上がってない国で」


吉川 「そうだけど、ちょっとくらい良くない?」


藤村 「そんなの出せるのは犯罪に手を染めてるやつくらいだ」


吉川 「ものすごい偏見」


藤村 「それか非合法ギリギリで稼いでるやつ」


吉川 「正当な仕事の人いないのか」


藤村 「スタバだぞ? いると思うか?」


吉川 「思うよ。お前のスタバに対する偏見なんなんだよ」


藤村 「あと注文もあれだろ? ちょっとでも噛んだりしたら全店舗に顔写真入りの文書がFAXされるんだろ?」


吉川 「ヤクザの破門状みたいだな。どういう世界を想像してるの? しかもFAXで? 常識的に考えて客一人に対してそこまで対応する方が難しいだろ」


藤村 「お前さ、ひょっとして慣れてるの?」


吉川 「慣れてるっていうか、そんなしょっちゅうは行ってないけど、普通に何回かは行ってるよ」


藤村 「あれもしたことあるのか? カスタム」


吉川 「なくはないよ」


藤村 「色々な成分を入れたり出したり2倍にしたりとかできるんだろ?」


吉川 「できるよ。だいたい」


藤村 「要するにメタルマックスみたいに自分好みにできるんだろ?」


吉川 「メタルマックスの方が逆にわからないな」


藤村 「本心から言えばやってみたかった。ずっとやってみたかった。でもスタバで注文をミスったってことになったら、もう何をやっても上手く笑えなくなるような気がして」


吉川 「そこまで? むしろ笑い話にすればいいだろ」


藤村 「それを笑い話にできるのは、そもそも持ってるポテンシャルが高いんだよ! 俺たち残機が1機しかない状態で日々をやりすごしてる人間にとってかすり傷でもゲームオーバーなんだよ!」


吉川 「そこまで思い詰めて生きなくてもいいだろ。あ、ドトールもあるぞ」


藤村 「そりゃなくない? 今俺は人生で初めてスタバの門をくぐるチャンスを得たんだぞ? それを目前にしてドトール? お前はゾーマが強いからってバラモスゾンビを倒してクリアした気になるのかよ?」


吉川 「例えが全部ゲームだな。ドトールもそんなに悪くないと思うけど、スタバへの憧れが強すぎるんだな」


藤村 「べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、べ、別に憧れてなんかないよ!」


吉川 「そんなにべを連射する? 寒冷地で死にそうな人なの?」


藤村 「とにかく俺はカスタムをしたい。2倍にしたり抜きにしたりしたい」


吉川 「すればいいと思うけど」


藤村 「だから教えてくれよ! 具体的に何を2倍するか、抜きにするか」


吉川 「それは最終的な好みに合わせて選ぶものだろ?」


藤村 「好みなんてねえよ! コーヒーなんてただの苦い水だろ! あんなもんはどうやっても不味いんだよ」


吉川 「じゃあコーヒー以外の甘い系とか頼めよ」


藤村 「それじゃスタバのコーヒーでカスタムをしたという実績を解除できないだろ!」


吉川 「現実で実績の解除を求めて行動してるのやばくないか?」


藤村 「頼むよ。とにかく2倍にしたりしたいんだ。何かのエキスを2倍にしてくれ。あと抜いたり入れたりしてくれ。ミルクをなんか白っぽい謎の液体に変えてくれ!」


吉川 「あ、スタバ20時までだって。終わってるわ。しょうがない、ドトールにするか? それなら別に……」


藤村 「バラモスゾンビをなめるなよ!」


吉川 「もう水でいいか」



暗転

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