敗者復活

藤村 「見事敗者復活の枠を勝ち取ったのは、吉川さんです!」


吉川 「よっしゃー!」


藤村 「どうですか、吉川さん。今の気持ちは」


吉川 「いやぁ、厳しかった。本当にもう、これを逃したら後がないんで。もう死にものぐるいでした」


藤村 「これから本戦に勝ち進んだ猛者たちと戦うことになるんですが、自信のほどは?」


吉川 「ボクには、この敗者復活戦で戦ったみんなの気持ちが宿ってるんで。ぶちかましてみせますよ!」


藤村 「敗者たちのねたみやひがみなどを背負ってるんですね」


吉川 「いや、そうじゃなくてさ。もっといいやつもあるでしょ?」


藤村 「うらみ?」


吉川 「ポジティブなやつ。応援するような」


藤村 「ないでしょう。負け犬どもですよ?」


吉川 「言い方きついな。そりゃ結果的には負けたかもしれないけど、一生懸命戦った仲間じゃないですか」


藤村 「そうです。その仲間たちの最後の夢をあなたが奪ったということで」


吉川 「奪ったっていうか。ボクも必死だったんで」


藤村 「必死で奪ったんですね。見てくださいあの顔。ありゃ死ぬかもしれないな」


吉川 「ちょっとぉ! なんでそういうこと言うんですか? 正々堂々と戦ったっ結果なんですよ?」


藤村 「まぁ、結果は結果ですから。美味い酒が飲めそうですか?」


吉川 「そう言われてさ、酒が美味しくなるわけないでしょ」


藤村 「これからの本戦ではまだ負けていないエリートたちと戦うことになりますが、恥ずかしくないですか?」


吉川 「恥ずかしくはないよ! なんで恥ずかしいことみたいに言うんだよ。敗者復活で来たんだから。全然誇らしいよ」


藤村 「そうですね。並み居る敗者たちの中から残った負け犬の中の負け犬と言ってもいいでしょう」


吉川 「よくないよ、その言い方は。言ってもよくない。もっと他の言い方にして」


藤村 「敗北という経験をしたからこそ強みがあると?」


吉川 「そうですね。一度地獄を見たからこそ誰よりも勝ちたい気持ちがあります」


藤村 「なるほど。あいつらが地獄ですね?」


吉川 「指差すなよ! 地獄が何かを具体的に言うなよ。ムード悪くなってきちゃってるじゃん」


藤村 「最初からそんなもんだと思いますよ? だって敗者だもん」


吉川 「よく言えるね、これだけの人を前に」


藤村 「言えませんか? 逆恨みが怖いから? 思ってても言えないわけですね」


吉川 「思ってないんだよ。綺麗に思ってる方に誘導しないでよ」


藤村 「ではこのすべてを奪われてしまった人たちになにか言うことはないですか?」


吉川 「言えないだろ、すべてを奪われてしまった人には。違うよ。まだ残ってるよ」


藤村 「絶望ですか?」


吉川 「最後に残ってたのが絶望って最悪のパンドラの箱だな。だから、このボクがみんなの勝ちたかったという気持ちを背負って戦うんで」


藤村 「ここにいる人たちはみんなあなたに勝ちたかったんですよ?」


吉川 「そうだけどさ。違うじゃん。全体的に見てさ。最終的に納得行く結果になればハッピーじゃないですか」


藤村 「って言ってますよ、皆さん。コイツのせいで本戦行けなかったのに」


吉川 「良くないなー! コイツって。ボク一人のせいじゃないでしょ。システム的にそうなってるんだから」


藤村 「はいはい。システムシステム。だから自分は悪くないということですね」


吉川 「悪くはないだろ。悪いことはなにもしてないよ。正々堂々と戦ったんだから」


藤村 「詐欺師だって経済を回してるとか言いますからね」


吉川 「完全に悪い例を並びたてないでくれる? 全然違うでしょ。とにかく、皆の代表としてカマしてくるんで!」


藤村 「まるで民主的に選ばれたかのような言い草ですね。どうですか? 奪い取られた敗者の皆さん?」


吉川 「メチャクチャ湧いてる。なんでそういう聞き方するの? 暴動起きそうになってるじゃん」


藤村 「では吉川さん、本戦でもがんばってください!」


吉川 「辞退します」



暗転

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