理解

藤村 「いらっしゃいま、あ……っ」


吉川 「?」


藤村 「あ、いらっしゃいませ。大丈夫です。どうぞ中へ。あ、全然大丈夫ですから」


吉川 「え? なにが?」


藤村 「当店は、どんなお客様でも歓迎いたしますので。どうぞ」


吉川 「はぁ」


藤村 「大丈夫ですよ。気になさらずに。私も理解がありますから。全然偏見とかありませんから。大丈夫です」


吉川 「え、なにがですか?」


藤村 「いえ、もう何も言わなくて大丈夫。理解があるので、変な差別とか絶対にしませんから。もしあなたを差別するような人がいたら、私が許しませんとも!」


吉川 「だから何がです?」


藤村 「まぁ、つまりそういうことですよね。でも大丈夫です。ご安心ください」


吉川 「つまりなに? なにを勝手に察したの?」


藤村 「確かにいますよ。あたなみたいな方を気持ち悪いと言う人は。でもね、そういう人こそ間違ってるんです。あなたは何も引け目を感じる事ないんです!」


吉川 「え、気持ち悪い? 言われたことないけど」


藤村 「いいえ! いるんですよ。特にあなたみたいな方を気持ち悪いと言う人は。でもそんな声に耳を傾ける必要なんて全然ありませんよ」


吉川 「あなたが耳に入れてるんだけどね。言われたことないから」


藤村 「いいや、言わないだけで心の中ではみんな思ってます!」


吉川 「みんな? みんなが思ってるの? それはあなたが、じゃなくて?」


藤村 「私はそういうことに理解があるんで」


吉川 「だから、どういうことに? ボクの何に対して理解してるの?」


藤村 「自分自身でそうやって卑下するのもよくないですよ。気持ち悪さも個性! 胸を張って生きましょう!」


吉川 「気持ち悪いと思ってるよね? あなたが気持ち悪いと思ってるってことだよね、それ」


藤村 「理解はしてます」


吉川 「なんだよ、理解って。理解するよりも気持ち悪いと思うなよ」


藤村 「それに関しては生理的なものなので仕方ない部分もあると思います。でも、だからといって気持ち悪い人が生きづらさを感じるような社会ではあってはならないと考えてるんです」


吉川 「この店に入るまで全然生きづらさ感じてなかったんだけど、急激にづらさがきたよ?」


藤村 「それはやはり人々の理解が足りない。偏見に塗れてるからではないでしょうか」


吉川 「いや、そういう問題じゃなくて。ただずーっと悪口を言われてるような不快感」


藤村 「そんなのお互い様ですよ」


吉川 「お互い様なの? なんで? ボクがなにかあなたにした?」


藤村 「したかしてないかで言えば、店に入ってきた時から『うわぁ』って思いましたけど」


吉川 「『うわぁ』って思ったんだ? 何に対して?」


藤村 「違います。偏見はないんです。私はどっちかと言うと『うわぁ』と思いがちなタイプの人間なだけで」


吉川 「なんだよ、『うわぁ』って思いがちって。人を見た目でなんかそういう風に判断してるってこと?」


藤村 「この間チョコフレーバーのソフトクリーム頼んだ時も『うわぁ』って言っちゃいましたから」


吉川 「それはもうウンコの『うわぁ』じゃん。『うわぁ』はウンコに対応してる感嘆詞なの?」


藤村 「ほぼ正解です」


吉川 「ほぼ正解したくなかったよ。ウンコに近い嫌さがあったわけ? ボクから」


藤村 「でも偏見はないんです。私はウンコだろうと粘土だろうとやれと言われれば素手でこねますよ」


吉川 「それはやめた方がいいよ。偏見とかじゃなくて。それをやったことによって誰も得しないし」


藤村 「本当なんです! 本当に偏見とかありませんから! 信じてください!」


吉川 「その必死さからえげつない偏見を感じるんだけど」


藤村 「わかりました。そこまでいうなら覚悟を決めました。もしお客様が一度でも不愉快に感じたなら、私もお客様みたいな感じにならせてもらいます!」


吉川 「人のことすげぇ罰ゲーム扱いするじゃん」



暗転

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