アンケート
藤村 「お会計2030円になります」
吉川 「あー、5000円しかないや。細かいの……。あ、30円あります」
藤村 「はい。では5000と30円から。では3000円のお返しとなります。あ、アンケートの方ご記入していただけたんですか? でしたらこちら、次回から使える10%の割引券となっておりますのでよろしければどうぞ」
吉川 「どうも」
藤村 「あー、スタッフの対応、良いに◯していただきありがとうございます。ちなみになんですけど、大変良いではないの、なにか理由などありますか?」
吉川 「え? いや、別に。普通に良かったです」
藤村 「一応、5段階で、大変良い、良い、普通、悪い、大変悪いとなってますが、ひょっとして良いが一番上だと勘違いされました?」
吉川 「え? なに? そんな追求されると思わなかった。普通に良いですけど」
藤村 「……で?」
吉川 「すごい詰めてくるじゃん。圧かけないでくださいよ。じゃあ、大変良いでいいです。書き直します」
藤村 「いやいや、お客様。それは違うじゃないですか。そうなっちゃうと私が無理に大変良いにさせた感じになっちゃうから。私は別に大変良いじゃなくても全然構わないんです。ただ理由があるならお聞かせ願えないかなーと」
吉川 「理由とかなくて。普通なんかそうじゃないですか? あんまり大変良いに◯つけなくないですか?」
藤村 「ないです」
吉川 「ないですか? あの、なんというか。伸びしろの部分とか。次来た時にもっと良くなってたら大変良いにランクアップして、その成長を称えたい感じの」
藤村 「今回も次回も大変良いで全く構わないと思いますけど」
吉川 「そう言われちゃそうだけど。なんか日本人ってそういうところないですか? ちょっと謙遜する感じの」
藤村 「謙遜は自分にするものじゃないですか? 他人を引きずり降ろしておいてその言い分はないでしょ」
吉川 「まぁ、そうなんですけど」
藤村 「あれですか? 審査員気取りですか? M-1を見て『あー、面白かった。最高! 94点』みたいな。100点でいいでしょ、面白かったら。ひょっとして自分に他人をジャッジする権利があると勘違いしてます?」
吉川 「すごい剛腕でひねり潰しに来るな。すみませんでした。間違ってました」
藤村 「間違ってはいないんじゃないですか? 本当に良いとは思ったんでしょ?」
吉川 「逃げ道塞いでくるタイプだ。はい。でもちょっと驕っていた部分があったかもしれないと気づき、反省しました」
藤村 「いやいや、そういうことじゃないんですよ。あなたに非はない。ただ大変良いではない理由をお聞かせ願いたいだけです」
吉川 「どう言ったらクリアになるんだこれ。良かったんです。良かったんですけど」
藤村 「けど?」
吉川 「強いて言えばちょっと注文が出てくるのが遅かったかなぁ~って」
藤村 「それって厨房の問題ですよね? じゃあ私が光速で運んだとしても、お客様のところに届くのはほんの数秒違うくらいですよね。それでも遅かったと。お前がグズだから。のろまだから。大変良いはつけられないと。そういう事でよろしいでしょうか?」
吉川 「違いました。ごめんなさい。全然運んでくれる人は悪くないと思います」
藤村 「私もね、接客は大変で毎日ヘトヘトになるんですけど、このアンケートを見ると元気をもらえる部分がありまして。だからこそ本心からお客様に喜んでもらいたいと頑張っているわけです。そして今まで長いこと働いてきまして今日この日、本当に最高の接客ができたと打ち震えるような気分だったわけです。死ぬ前に思い出す日があるとしたら今日だろうと。そう思っていたわけです。でアンケートを見たら、良い」
吉川 「すみませんでした。まさかそんな思いを抱えてるとはつゆ知らず」
藤村 「違うんです。どうしたらお客様にとっての大変良いを獲得できるのか。それが知りたいんです。お客様を責めてるわけではありません。ただただ自分の身勝手な向上心ゆえのことなので」
吉川 「こうやってアンケートで圧をかけてくることがなければ……」
藤村 「違うじゃないですか? このくだりの前の段階ですでに回答し終えて良いだったわけでしょ? ここはもうノーカンじゃないですか」
吉川 「……顔が! 顔が怖かったんです!」
藤村 「それが理由でしたか。大変申し訳ありませんでした。よくわかりました」
吉川 「いけたのか、それで」
藤村 「つきましては、容姿に対する誹謗の件で弁護士を交えて話し合いをしたいと思うのですが」
吉川 「いけなかったー」
暗転
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