世界

魔王 「どうだ、私の部下になれ。世界の半分をやろう」


吉川 「ふざけるなっ!」


魔王 「そうか。半分ではダメか。なら3分の1ならどうだ?」


吉川 「なんで減ってるんだよ! それで頷くと思ったか!」


魔王 「だったら4分の1でいいから引き受けてもらえまいか?」


吉川 「どういうことだ? 風向きが変わったな」


魔王 「頼む。正直ワンオペで世界全部はしんどすぎる」


吉川 「あ、本当に実務をする部下を求めてたんだ。しかも今までワンオペだったの?」


魔王 「魔族は倫理観がないから、何も任せられない。共食いとかするし」


吉川 「なるほどな。そんな苦労があったんだ。というか世界を結構ちゃんと統治してたんだ」


魔王 「当たり前だろ。武器屋や宿屋がなんで営業できてると思ってんだ」


吉川 「こんな時代なのに頑張ってるなーって思ってた」


魔王 「頑張ってないよ! あいつら放っておくと全然働かないからこっちから助成金出してなんとかやってもらってんだよ! 考えてみろよ、銅の剣なんて一日何本売れると思ってるんだ?」


吉川 「助成金出してたの? 割としっかりとした体制で統治してる」


魔王 「普通に食料品とか嗜好品で商売すればいいのにさ、人間は怠けてばっかりで全然そういう文化的な発展をしない。武器や道具の店をやってれば頑張らなくても食っていけるから。もうこっちの財政だってカツカツなんだよ!」


吉川 「財政のこと考えてるんだ。魔王が」


魔王 「それでもこの状況をなんとかしてもらおうと、冒険者に対する支援を続けていて、やっとお前が来てくれたんだ!」


吉川 「思ってたのと違う。そういう組織の仲間を募るための冒険者だったの?」


魔王 「真面目に魔王を倒そうとここに来てくれた、そういう人材を求めてるんだ。他の冒険者達は人間同士でいざこざを起こしたり、酒を飲んで暴れたり、魔王の事なんてそっちのけで小金を稼ぐクエストばっかりやってたりして!」


吉川 「いるけどな。確かにそういう冒険者多いけど。他の冒険者全然ここに来てないの?」


魔王 「来てくれない……。お前だけが頼みの綱だ!」


吉川 「それで世界の半分とか言い出したのか」


魔王 「半分とは言わない。10分の1でも見てくれたら助かる」


吉川 「ちなみになんだけど、魔王を倒しちゃった場合はどうなるの?」


魔王 「え? いいの!? そしたら世界のすべてお前が面倒見ることになるけど。まじかぁ。いいんなら是非!」


吉川 「いや、やっぱり良くない。この世界はこの世界でそれなりの秩序あったし、それがグチャグチャになっちゃうんでしょ」


魔王 「正直、ある程度力をつけた冒険者たちが何をしでかすかは想像したくない」


吉川 「確かに。段々共感してきちゃったな。試しにちょっと手伝うとしたらどういうことから?」


魔王 「今本当に頭を悩ませてるのが、この地域で。すぅぐ紛争を起こすし、治安は悪いし、経済的にもまったく見込めない。資源はあるんだよ? ただ労働という概念に対してなにか憎悪を抱いてるくらい最悪の文化で」


吉川 「うわぁ、ここは俺も行きたくないところだ。ここはもうしょうがないでしょ、諦めよう」


魔王 「何度そう思ったことか。でも見捨てるわけにも行かないから、なるべくいい武器や防具を供給してこの地に冒険者が来るようにはしてるんだけど」


吉川 「それでか。あと経験値の多いモンスターも多かった」


魔王 「そう。それ目的で集客しようかと」


吉川 「考えてるなー。上手くやってくれてたんだ」


魔王 「なのにこいつらはそれをいいことにどんどん腐敗していって。手にした金だって他の人間を虐げることにしか使わないし」


吉川 「酷い土地だったよ。もうさ、人間滅ぼしちゃっていいんじゃない?」


魔王 「それはお前、考えないようにしてたのに」


吉川 「いや、もういいよ。よくやったよここまで」


魔王 「とは言え、ここまでやってきた分だけ愛着もあるし」


吉川 「勘違いするなよ。あいつらがしてきたことを思い出せ! あんたがここまでやってもあいつらは毛ほども感謝してないぞ」


魔王 「そうなのか」


吉川 「愚かな人間どもを根絶やしにしようぜ?」



暗転

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