回転寿司

藤村 「いらっしゃいませ~。こちらのお席の方にどうぞ。はい、どうぞどうぞ」


吉川 「あ、はい」


藤村 「お客さん、ひょっとしてお腹すいてるんじゃないですか?」


吉川 「そりゃ、すいてなきゃ回転寿司に来ないですよ」


藤村 「なるほどー。色々な人がいますね。では今日、一番遠くから来たぞっていうお客さんいたら手を上げてくださーい」


吉川 「なに? なにをやってるの? ここ回転寿司じゃないの?」


藤村 「はい。そうです。回転寿司です。本日MCを務めさせていただきます藤村と申します」


吉川 「MC? MCがいるの? なんのために?」


藤村 「回すためです」


吉川 「回す? MCが回すの? こう、流れを? そういう意味の回転寿司なの?」


藤村 「はい。頑張って回させてもらいたいと思います。さぁ、お客さん。今日の最初の注文はどんな感じでいきたいなーとかありますか?」


吉川 「ちょっと煩わしいな。あんまり人と話したりしたくないから回転寿司に来たのに」


藤村 「なるほどなるほど。私は貝になりたい、ということで行ってみましょう! 赤貝カモーン!」


吉川 「いや、勝手に注文するなよ。しかも上手いこと言った感じで」


藤村 「本日、こちらの赤貝かなりの自信作となってます。普段なら赤貝と言うとビロ~ンとやる気のない感じで気持ち悪いやつが乗ってる寿司になりますが、本日の赤貝はもうやる気に満ち溢れていてビロンッ! って気持ち悪いやつが乗ってます」


吉川 「言い方だけだろ。あと気持ち悪いやつ呼ばわりするのやめろよ。貝なんてそんなもんだろ」


藤村 「さぁやってまいりますでしょうか。赤貝。レーンを素早く流れて今、お客さんの元にたどりつ……おっとここでスィープ! 他のお客さんに取られてしまいました。残念!」


吉川 「なんだよ、そのシステム。スィープさせるなよ。回転寿司でやっちゃダメなやつだろ」


藤村 「こちら会計の方が盗ったお客さんに移ります。さぁ、どうでしょう? 次こそは着実にオーダーを決めたいところですが?」


吉川 「最初から着実に決めたいよ。むしろ着実にオーダーの決まらない飲食店ってなんなんだよ。そこは100%で来いよ」


藤村 「そうこう言ってる間に、目の前をプリンが通り過ぎていきます。さぁ吉川さんはどう動くか!?」


吉川 「いや、スィープしないですよ。他のお客さんの注文でしょ? 待ってる方に悪いじゃないですか。そもそも初手でプリンってないでしょ。何を食べに来たと思ってるんだ」


藤村 「逆にどうですか? ひな壇の方のお客さん」


吉川 「ひな壇の席があるの? いよいよ回し始めたな」


藤村 「他に注文ある方いらっしゃいますでしょうか? 面白いエピソードでも結構です」


吉川 「エピソードで結構な理由がわからないんだよ。回転寿司にエピソード持ち込まないだろ。話し相手のいない老人じゃないんだから」


藤村 「おっ! そちらのおじいちゃん!」


吉川 「いるんじゃねえか。話し相手のいない老人がしっかりと」


老人 「炙りサーモンバジルチーズ」


吉川 「注文じゃん! しかも変化球メニュー。ジジイが見たこともないハイカラなものを!」


藤村 「おじいちゃん、ここはお寿司屋さんなんでそんなメニューはありませんよ?」


吉川 「割と保守的な寿司屋だったんだ。優しく諭してるんじゃないよ。爺さんの挑戦空回りしてるじゃない」


老人 「ワシが若い頃にまるで炙りサーモンみたいな火照ったいい女がいてな……」


吉川 「エピソードトークの方だったのかよ。ジジイのハイカラなエピソードトーク聞きに寿司屋い入ったわけじゃないんだよ」


藤村 「さぁ、おじいちゃんから結局何言ってるんだかわからないエピソードが飛び出ましたが、お客さんの方はどうです?」


吉川 「振るなよ、こっちに。おじいちゃんの話ももっと膨らませてやれよ」


藤村 「と言ったところで最後の逆転チャンスです! なんと今回の注文は値段が100倍になります! 大逆転可能!」


吉川 「よくある演出だけど全然嬉しくないな」



暗転

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