植樹
藤村 「本日はお足元の悪い中、植樹式に参列していただきありがとうございます。木なんて勝手に植えてろよと思われてる方も多いでしょう。そんな中、わざわざ台風まで来てるのに来ていただき、感謝します」
吉川 「まさか雨天決行するとは思わなかった」
藤村 「普通はもっとやることあるはずなのに、雨の中の植樹式に来ていただいて本当にありがたいと思ってます」
吉川 「やることない人みたいに言うなよ」
藤村 「まぁ、植樹式自体は、植えるだけなんで2秒で終わってしまいますから、こうやって意味があるんだかないんだかわからないようなコメントで間を稼がさせてもらってます」
吉川 「正直に言ったなぁ。大体の式典がそうだけど。それは言わない約束じゃない?」
藤村 「他にも著名な方や豪華なゲストなどの予定がありましたが、普通この天候の中来れないですから。もう諦めてください」
吉川 「来た人が普通じゃないみたいな言い方やめてよ」
藤村 「本来なら土をちょっと耕すようなこともね、見せたりするんですけど、ご覧のようにもうグチャグチャなので」
吉川 「確かにグチャグチャだけども」
藤村 「なのでパッパと終わらせたいところではあるんですけど、運営の方から話を伸ばしていただきたいという指示も来てますので、最前列のあなた、今日はどこから来ましたか?」
吉川 「客いじりはじめた。植樹式で客いじりするの初めて見たよ」
藤村 「……はい。ノリの悪いお客さんしかいませんね」
吉川 「そんな言い方する? この雨の中いるだけでも結構頑張ってるよ?」
藤村 「まぁ、植える木なんですけど、これからの皆さんの繁栄を願ってですね、大変縁起のいいと言われてる木を用意したんですが」
吉川 「やっと運ばれてきた」
藤村 「見てください。なんか水没してシヨシヨになっちゃって」
吉川 「シヨシヨになってる! 明らかに下向いてる!」
藤村 「ここからこの木が頑張れるかどうか、それはもう皆さんの思い次第です」
吉川 「そこから頑張らすの!? もうフルマラソン走った後の中年男性みたいになってるよ?」
藤村 「もしこれで枯れたら皆さんの連帯責任ということになりますから」
吉川 「背負わせるなよ! せっかく植樹式を見に来た人たちに業を背負わせないでよ」
藤村 「では早速植えたいと思います。あれ? これどっちが上? こっち?」
吉川 「もうシオシオすぎて根だか枝だかもわからなくなってる」
藤村 「一か八か、こっちが上に賭けてみます!」
吉川 「植樹で一か八かの賭けが発生することあるんだ」
藤村 「一応保険としてなんか撒いておこうか? ひまわりの種とか」
吉川 「木に関してはあきらめムードが漂ってる」
藤村 「ちょうどこの間、中国からなんか変な種が送れてきたんだけど」
吉川 「絶対に植えちゃいけないやつだよ! ここでするような話題じゃない!」
藤村 「どうせだったら次は食べられるやつがいいね。あれいいじゃん、ゴーヤ。夏に向けて」
吉川 「グリーンカーテン作ろうとしてる? 趣味の園芸コーナーみたいになってきたな」
藤村 「あ、こっちの木の方が元気でいいじゃん? これ。ほら」
吉川 「元々植わってた木だよ、それは」
藤村 「え? これ違う人が植樹したやつ? やべ、抜いちゃった。なんか地面がグチョグチョだから」
吉川 「植樹が失敗しただけならゼロだけど、人のやつ抜いてマイナスになってる」
藤村 「ちょうど中国から送られてきた変な種あるけど」
吉川 「だからそれはダメなんだって! 代わりにならないよ!」
藤村 「でもこれはこんな丁度いいところに植えた人が悪いよ。ねぇ?」
吉川 「だいたい植樹するスペースなんて一緒なんだから想定できただろ」
藤村 「あっ! なんと、我々が来た時にはすでに倒れていた木が! 台風の影響で! 皆さん、そうですよね? 来た時にはもうすでに倒れてましたね?」
吉川 「口裏合わせようとしてる。怖い」
藤村 「というわけで、植樹式は終わりです。はい、解散。SNS等にはあげないでください」
吉川 「そっけない終わり方。木で鼻をくくったような態度」
暗転
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