仕込み

藤村 「あ、どうも」


吉川 「どうも、はじめまして」


藤村 「笹咲の友達ですか?」


吉川 「友達っていうか、まぁはい。知り合いですね。そちらもそうでしょ?」


藤村 「ええ、ボクは中学の頃からなんですよ」


吉川 「うわ、それは長いな。まぁ、笹咲さんはまだ挨拶とか色々忙しそうですね」


藤村 「主役ですからね。しょうがない。パーティに来たものの、考えてみればあいつ以外にほとんど知り合いがいなくて」


吉川 「こっちも似たようなもんですよ。あっちに寿司ありましたよ、食べました?」


藤村 「食べました。なんかね、あいつが社交的なのはすごいんだけど、こんなに人がいると思わなかったから。ボクなんて平凡な人間なのに」


吉川 「平凡ですか。そうだ。私この後に余興で手品をするんですよ」


藤村 「へー、すごい」


吉川 「もしよかったらアレなんですけど、その時に手伝ってもらえませんか?」


藤村 「助手ですか?」


吉川 「っていうのじゃなくて、お客さんの中から無作為に選んだ感じで」


藤村 「あー! 仕込みのってこと? 面白そう。そういうのやったことない」


吉川 「お互いに面識がないですし、こういうの平凡な人の方がより面白いんですよ」


藤村 「わぁ、面白い。何すればいいですか?」


吉川 「あらかじめあなたしか知らないような情報を教えておいてもらうと、例えば好きな食べ物とか」


藤村 「なるほど。それを急に当てると。そうですね、好きな食べ物かぁ。ウエハースかなぁ」


吉川 「ウエハース? ウエハースが好きなの? あれは好きになるところないやつじゃないですか? 長所がどこにもないのが長所みたいな。なんかお菓子って言うより医療用のしょうがなく食べる何かみたいなものでしょ」


藤村 「好きなんですよ、ウエハース」


吉川 「変わってるなぁ。じゃ、出身の小学校は?」


藤村 「ルブジマイ第三小学校」


吉川 「ルブジマイ? どこそれ。何県?」


藤村 「コンゴです」


吉川 「コンゴ!? え、帰国子女なんだ?」


藤村 「12歳まで。ルブ三小知ってます?」


吉川 「いえ、知らないです。ルブ三小っていうの? 現地の言葉で三小って言ってた?」


藤村 「地元では三小だけで。全部ルブジマイだから」


吉川 「そうでしょうね。ビックリしたな。じゃ、初めて飼ったペットの名前は?」


藤村 「ピーちゃんですね」


吉川 「あー、インコとか?」


藤村 「オカピです」


吉川 「オカピ!? オカピを飼ってたの?」


藤村 「コンゴだったんで」


吉川 「そういうものなの? コンゴだからオカピ飼ってて普通なの?」


藤村 「周りは誰も飼ってなかったな。なんか獰猛なんで」


吉川 「獰猛なんだ。ちょっと平凡な人という先入観があったからか、全部度肝を抜かれてるな。全然あなた平凡じゃないですよ」


藤村 「いやぁ、でも笹咲に比べたら」


吉川 「そういうもんですかね。じゃあ、母親の旧姓は?」


藤村 「ンモソイです」


吉川 「ンモソイ。ンから始まるんだ。しりとりでアドバンスルールを適用しなきゃならないやつ。ハーフなんですか?」


藤村 「いえいえ、6分の1だけ向こうの血が入っていて」


吉川 「あぁ……。ん? 6分の1? どうやってその血は入ったの? 6はなくない? 2とか4とか8でしょ?」


藤村 「一夫多妻だったから」


吉川 「なるの!? 一夫多妻の場合、6分の1に!?」


藤村 「複雑な家庭だったんで」


吉川 「全然平凡なエピソードがない。逆にこれをズバリ当てちゃうと仕込っぽさがバレちゃう」


藤村 「まずいですかね?」


吉川 「これを平凡って思うってどういう感覚なんですか? ひょっとしてこのパーティに来てる人、みんなそのくらいのエピソードあるんですか?」


藤村 「まぁ、どっちかと言うとボクは平凡な方でしょうね」


吉川 「すごいところに来ちゃったな。こんなところで手品して盛り上がるかな?」


藤村 「いや、手品は盛り上がるでしょう!」


吉川 「そうですか? じゃあちょっと前もってのトランプを財布の中の銀行のカードと交換しておいてもらえます? 手品終わったら返しますんで」


藤村 「わかりました。いやぁ、楽しみだな」


吉川 「じゃ、ちょっと私は準備してきますね」



暗転

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