梅雨

吉川 「いよいよ梅雨入りだよ。ジメジメして嫌だなぁ」


藤村 「バッ、お前! あんまり大きな声でそういうこと言うなよ!」


吉川 「なにが? なんか言った、俺?」


藤村 「言っただろう。中学生じゃないんだから、そんなくだらない下ネタ言って喜んでるんじゃねえよ」


吉川 「ん? え? なにか言ってた? 梅雨ってこと?」


藤村 「梅雨は梅雨だろ。梅雨が下ネタだったら天気予報は興奮しっぱなしになっちゃうだろ」


吉川 「そうだよな。じゃあ言ってないんじゃない?」


藤村 「どういうこと? あんなこと言っておいて。ジメジメって言っただろ!」


吉川 「言った」


藤村 「うわぁ、つい流れで俺も言ってしまった。エロワードを」


吉川 「エロワードじゃないだろ、ジメジメは」


藤村 「また言った! 場をわきまえろ!」


吉川 「言うだろ? この季節にはジメジメって」


藤村 「だから言うシチュエーションなんて限られてるだろ。そういう動画ばっかりしてるから感覚が麻痺してるんだよ」


吉川 「違うよ。普通の。日常で」


藤村 「日常で言うか? 『ほら、もうこんなにジメジメになっちゃってるよ』なんて!」


吉川 「その言い方はしない。その言い方をするシチュエーションは限られてるから。日常会話じゃないから」


藤村 「他にどんな時に使う? 聞いたことあるか、それ以外の使い道」


吉川 「あるよ。逆になんでそんな自信を持ってそのシチュエーションのみだと思い込んでるのか。ニュースとかで聞かない?」


藤村 「ニュースって、女性キャスターがなんかそういうことになっちゃうやつ?」


吉川 「違うな。恐らくお前が思ってるのと俺が思ってるのとは違う。ニュースを見て『なんかそういうことになってるな』って感想を抱いたこと人生で一度もないから」


藤村 「他にどんなニュースが?」


吉川 「他にっていうかニュースはお前が思ってるのの他のものだよ。報道だよ。ただ事実を伝える番組だよ」


藤村 「お前の想像力が規格外すぎて全然伝わってこないわ。俺はやっぱり普通のタイトスカートのキャスターのやつしか見たことないもん」


吉川 「普通のやつはそれじゃないんだよ。お前が異常なの。俺はただ梅雨の話をしているだけ!」


藤村 「わかった。一応一回だけは見逃してやる。たまたま変に聞こえちゃった可能性もあるからな」


吉川 「変なこと言ってないんだよ、別に」


藤村 「でも雨すごいな。電車止まっちゃってるし」


吉川 「あと湿度が高いと眠くなるんだよなぁ。なんか部屋がしっとりとして」


藤村 「言った! ストライクゾーンを掠ってる。それはエロワードだよ、いくらなんでも」


吉川 「どれ?」


藤村 「『ほら、もうこんなにしっとりしちゃってるよ』のしっとりだよ」


吉川 「しっとりは他の時にも使うよ! むしろ使うか、そんな時に?」


藤村 「そういう時にしか使わない」


吉川 「化粧品のCMとかどうなんだよ?」


藤村 「化粧品のCMなんて全部そういう目的のために作られてるんだろ!」


吉川 「嘘だろ……。多感にもほどがあるよ。性に目覚めた小学4年生でも化粧品のCMで興奮はしないよ」


藤村 「なんか最近、そういうの規制がゆるくなってると言うか、タガが外れてる気がするんだよ。公共の場で言うべきじゃないようなことってあるだろ。品性の問題だよ」


吉川 「お前のその全身煩悩みたいな感度だとなんでもそう思えるんじゃない?」


藤村 「違うよ! さっきだって駅で女性が『ビショビショになっちゃった』とか言ってたんだぞ? そんなの遠隔でブルブルされてる人しか言わないだろ」


吉川 「なんだよ、遠隔でブルブルって。言うよ。雨降ってるんだから。誰でも言う。老若男女言う」


藤村 「例えそうだったとしても、そういうのはそういう状況の時しか言うべきじゃないと思う」


吉川 「常識があるのかないのかまったくわからないな。うわっ。ここすごい水が溢れてる。排水溝が詰まってるんだな」


藤村 「もうこうなっちゃったらどうにもならないよ。水が引くまで」


吉川 「でもほら、トイレの詰まりを直すやつあるじゃん? あれでズッコンバッコンすれば抜けるかも」


藤村 「そうだな」


吉川 「こっちは恥ずかしくなるくらい無反応なのやめてくれない?」


藤村 「なにが?」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る