やる気

藤村 「いらっしゃいませー! 頑張りまくりカフェへようこそ!」


吉川 「すごい居酒屋みたいなノリのカフェだな」


藤村 「だらっしゃっしゃいやいやーす!」


吉川 「テンション上がりすぎて何言ってるかわからないな」


藤村 「はい、こちらメニューになります! ご注文が決まりましたら大声でお呼びください!」


吉川 「大声で呼ぶの? そのノリを客側にまで強制しないでくれない?」


藤村 「ではこちらのブブゼラを鳴らしてください」


吉川 「ブブゼラ! なんか懐かしい! 前にサッカーの時にちょっと流行ったやつ!」


藤村 「なお感染症対策のために、こちらのブブゼラ専用アタッチメントマウスピースをご使用ください。これはお持ち帰りいただいて結構です」


吉川 「持ち帰っても使う機会ないでしょ。ブブゼラ専用アタッチメントマウスピースを」


藤村 「はい、こちらお通しです!」


吉川 「お通しあるの? カフェじゃないの?」


藤村 「タピオカとウエハースの白和えです!」


吉川 「なにそれ。味のないものを味のないもので和えてるの? よくそのテンションで持ってこれるな」


藤村 「どうぞー!」


吉川 「しかもちっちゃい。お猪口か? ノリと出てくるもののギャップがすごいな」


藤村 「ご注文はお決まりになりましたか?」


吉川 「いや、まだですよ。ブブゼラ吹けって言ったくせに」


藤村 「もしよろしければ決まるまでしつこく付きまといますけど?」


吉川 「なんでだよ。気になって決められないだろ。サービスっぽい感じで言うなよ」


藤村 「こちらのメニューなんかオススメになりますが?」


吉川 「どれ?」


藤村 「白湯です!」


吉川 「薬飲むわけじゃないんだからさ。白湯を猛プッシュしてくるカフェ聞いたことないよ」


藤村 「あっ! お客様! 私それと全く同じやつ持ってます!」


吉川 「え? どれ? 時計?」


藤村 「そのブブゼラ専用アタッチメントマウスピース!」


吉川 「だろうな。お前がくれたんだよ。この短時間で記憶失った?」


藤村 「いいですよねー、ブブゼラ専用アタッチメントマウスピース」


吉川 「いいと思ったことはないよ。もう鬱陶しいな。わかりましたよ。注文いいですか?」


藤村 「……」


吉川 「ブブゼラ吹かなきゃダメなの? この距離で?」


藤村 「……」


吉川 「ブパー!」


藤村 「うるさ……」


吉川 「えぇ!? なにそのノリ。喜んでもらえると思ったからやったのに」


藤村 「もう……。こっちは疲れてるっていうのに」


吉川 「疲れちゃったの? あのノリで? それは完全に自己責任じゃない?」


藤村 「はぁ、しんどい……」


吉川 「躁鬱の切り替わりがえげつないな。もっとフラットな状態を持続させるようにすればいいのに」


藤村 「ご注文あります? なきゃないでいいですけど」


吉川 「なかったらそもそもカフェに入らないよ。じゃ、普通に。コーヒー」


藤村 「薄めで?」


吉川 「なんで? なんで勝手に薄めをサジェストしてきたの? そんなカフェ初めてだよ。普通のが飲みたいのに」


藤村 「薄めでも良くないですか?」


吉川 「それはあなたが決めることじゃないな。テンション下がると味も薄くなるんだ。ひょっとしてさっきのお通し作った人も落ちてたの?」


藤村 「あの人は早朝シフトだったから」


吉川 「早朝に出し切っちゃったんだ。だから味のないものを。来る時間によって当たり外れがデカい店だな。いや、テンション高いからと言ってあれも当たりとは言えないが」


藤村 「じゃ、普通のコーヒーで。もし持ってこれるようなら持ってきます」


吉川 「持ってこれない場合を想定するなよ。店員なんだから。それはマストでやれよ」


藤村 「はぁ、厨房まで遠いな」


吉川 「その距離を面倒くさがるなよ。さっきまで無駄になん往復もしてたくせに!」


藤村 「あー、お待たせしました。こちらスパイシーホットコーヒー大盛りです」


吉川 「厨房のやつ持ち直してるじゃねえか!」



暗転

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