吉川 「すみません。道を教えて欲しいんですけど」


藤村 「はい、大丈夫ですよ。どうしました?」


吉川 「このホテルなんですけど。こっちの道で合ってるんですかね?」


藤村 「わかりました。えーとですね、シンプルに言えば、そのままの自分でいいと思いますよ。結局、どんな時でも今までやってきたことが強みになるんで。自信を持ってやっていけば大丈夫だと思います」


吉川 「え? この道ってことですか? これ、通りの名前が書いてあるのと違うんですけど」


藤村 「わかります。私もいつの間にか思い描いていた道とは違うところを歩いてたと思ったことはあるんですよ。でも結局繋がってるんですよ。自分を信じていけばいつかはたどり着けるものなんです」


吉川 「ん? この通りでいいんですか?」


藤村 「DO IT YOURSELF!」


吉川 「それ自分で作ろうってことでしょ。日曜大工とかの。自分を信じてって言いたかったのかな」


藤村 「私もそうやってたどり着きましたから」


吉川 「ホテルに? このホテルですか?」


藤村 「ホテルってなんですか? 人の話聞いてました?」


吉川 「いや、こっちのセリフですよ。ホテルの場所を聞いてるんですよ」


藤村 「道に迷ったから教え導いて欲しいんじゃないですか?」


吉川 「ホテルまでのね。なんか人生訓みたいの言ってません?」


藤村 「言いました。やや調子に乗って語っちゃいました。現在無職なのに」


吉川 「無職なのに? 結構えらそうに言ってたな。道は繋がってるとか言ってた癖に無職へ繋がってたの?」


藤村 「やめて、それ以上は。泣いちゃうから」


吉川 「あぁ、すみません。じゃあホテルまでの道はわからないんですか?」


藤村 「実際の道? この地球上の? 位置を訪ねてるの?」


吉川 「普通そうじゃないですか? 見ず知らずの人に人生迷ってますって尋ねないですよ」


藤村 「逆に無職だったのが功を奏したのかなって浮かれちゃったよ」


吉川 「そんな功の奏し方ないでしょ。そもそも無職かどうかは見た目じゃわからないし。あの人無職だから聞いてみようって判断できないですよ」


藤村 「道ってそういう。だったらほら、この道を真っ直ぐ行くと、ほら青っぽいビルわかります?」


吉川 「はい」


藤村 「いや、青っぽいっていうか紫っぽいかな。光の加減かな? 紫っぽいか?」


吉川 「はい。それで」


藤村 「やっぱり青っぽいかな。その隣のビルが赤っぽいから紫っぽく見えただけで青っぽいかもしれない」


吉川 「もうわかるから! 何色っぽくてもいいよ! あのビルを指してるんでしょ。それはわかったから!」


藤村 「近づいたらまた違う色だと思うかもしれない。彩度上がるから」


吉川 「色っぽさどうでもいいんだよ! あのビルでしょ!」


藤村 「色っぽいとか艶っぽいとかエロいとかそういう話をしてるわけじゃないんだよ」


吉川 「こっちもしてないよ! 話が脱線すると言うか、いつまでたっても駅から発車しない!」


藤村 「じゃああのビルね。わかるね? あのビルの通りをこっち側、左利きの人がお箸を持つ方」


吉川 「左ですね」


藤村 「いや、それは利き腕によって人それぞれだから」


吉川 「いいから! 左でしょ。左に曲がるんですね?」


藤村 「そうすると細いビルがあるから。細いビルって言ってもビルとしては細いってだけで建物としてはそれなりにあって……」


吉川 「わかりました! 細いビル! 完全にわかりました! それで?」


藤村 「その細いビルの自動ドアを入るとフリーwi-fiが入ってて結構電波強いからそこで地図アプリを見るといいかも」


吉川 「地図アプリを! 地図見るの苦手だから聞いてるのに!」


藤村 「じゃ、一緒に行く?」


吉川 「そっち方面なんですか?」


藤村 「いや、家に帰るんだけど。最寄りの駅を降りたところにすぐ交番あるから。そこで聞けば」


吉川 「なんであなたの最寄りの駅まで!? 交番なら結構そこら中にあるでしょ!」


藤村 「そこしか知らないから」


吉川 「もういいですよ! 他の人に聞くから」


藤村 「本当? じゃ、俺もその人に人生のこと聞いてみようかな」


吉川 「便乗するなよ!」



暗転

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