メシア2

藤村 「これこれ、なぜ石を投げる?」


吉川 「あっ! 救世主様、実はこの女が姦淫の罪を犯したので皆で石を投げているのです」


藤村 「なんということを。それでは、あなたたちの中でエッチな動画を見ていたんだけど、冒頭の厳しい女上司に叱責されるシーンで実際に怒られた気になっちゃって、なんかもうそういう気分でもなくなっちゃった経験のある人のみ、石を投げなさい」


吉川 「……どういうことですか?」


藤村 「物語の導入のところで、女上司から詰め寄られる場面があるでしょ? 多分マゾヒストはそれでゾクゾクするんだろうけど、なんか本当に仕事で怒られてるみたいな気持ちになってしょんぼりしちゃって、この感情どこにぶつければいいの? という者だけが石を投げなさい」


吉川 「そんな人いないと思いますが?」


藤村 「ならば皆石を投げるのを止めるのです」


吉川 「それは理屈としておかしくないですか? 全然関係ないことじゃないですか。それはただ感受性がバグってる可哀想な人ってことでしょ?」


藤村 「ならば、エッチな動画を見てる時に男優の尻が妙にキレイだったためにそっちが女優かと思って注視してたら男優だとわかって、感情のぶつけどころがどこにもなくて煩悶した者のみ石を投げなさい」


吉川 「……なにそれ?」


藤村 「いや、だから。こう、後ろからのカットだったために……」


吉川 「いや、説明はいいですよ。なにその全然共感できないシチュエーション。そんな限定的なのに当てはまる人の方が少ないでしょ」


藤村 「ならば皆石を投げるのを止めるのです」


吉川 「納得感がないんだよ。じゃあなに? 男の尻を女だと勘違いしてた人は石を投げていいってこと?」


藤村 「やむなし」


吉川 「やむなしじゃねーよ! どういう理屈だよ」


藤村 「そのくらい憤りのやり場がないので」


吉川 「お前の個人的な事情じゃねえか。石を投げられる女にだって心当たりが無いだろ。もう姦淫の罪とか関係なくなってるんだから」


藤村 「でも結果的に石を投げる人がいなくなってるんだから、いいんじゃないかなって」


吉川 「そういうことじゃないだろ。もっと石を投げてる俺たちをハッとさせて欲しいんだよ。それで自ら石を投げることなんてやめようって思わせて欲しいの」


藤村 「ならばこの中で、熟女モノを見ようかなと思ったんんだけど、熟女の熟し具合がえげつなくて、もうお婆ちゃんだかお爺ちゃんだかわからんぞ、この人。となってさすがにこれはチャレンジできないなぁと自分の保守的な心が情けなくなった人のみ石を投げなさい」


吉川 「なんだよ、それ! もうなんにも関係ないじゃん。ただのお前の異常なしょんぼりエピソード紹介のコーナーなの?」


藤村 「まじでお爺ちゃんだかお婆ちゃんだかわからなくて」


吉川 「どうでもいいんだよ! なにそのテーマで掘ろうとしてるんだよ。乗らないよそんなの」


藤村 「そういう者のみ石を投げなさい」


吉川 「説得しようとしてないだろ? それだったら何も例を出さずに石を投げるなって命令された方がまだスッキリするよ。気色の悪いエピソード持つやつだけ石を投げてOKっていうラインが全然わからないんだよ」


藤村 「それはあなたたちの心に問いかけてるのです」


吉川 「どういうことだよ? なんで今までの流れでそこまで真顔で説教し続けられてるの? メンタルどうなってるんだよ」


藤村 「この女性は姦淫の罪を犯したかもしれない。そう思うとやっぱり見る目も変わってくるじゃない? ワンチャンあるのかな、って思いがちじゃない?」


吉川 「そういうつもりじゃないんだよ。お前の煩悩あらゆる方向に向いてるな」


藤村 「ならば石を投げるのは止めるのです! 代わりにこの水風船に入れたローションを投げつけなさい」


吉川 「お前の癖!」


藤村 「それそれー!」


吉川 「おい、みんな! こいつを止めろ!」



暗転

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