メシア

吉川 「これこれ、寄ってたかって石など投げて、一体どうしたというのです?」


藤村 「あっ!? 救世主様! 実は今度実写化されるアニメ作品のキャラの髪型が違うと炎上してるのでみんなで石を投げているのです」


吉川 「なるほどそうですか。わかりました。ではこの中で、アニメの実写映画化に文句を言ったことない人のみ、石を投げなさい」


藤村 「いや、違うんですよ。実写映画化に対して文句を言ったわけじゃないんです。実写映画化に対しては全員文句言うじゃないですか? 100%じゃないですか? むしろ原作に全然興味もない人まで文句言ってるんだから1000%じゃないですか?」


吉川 「ん? どういうこと?」


藤村 「だから、実写映画化される時にキャラの髪型が変わっていて、それが納得いかないんです」


吉川 「ではこの中で、アニメのキャラの髪型が変だということで文句を言ったことのない人のみ、石を投げなさい」


藤村 「だから違うんですよ! アニメのキャラの髪型なんて変じゃないですか? むしろ変な髪型なのがキャラの重要な要素でしょ。シルエットのみでキャラが識別できるくらいわざと変にしてるのがキャラの髪型ですよ。そこは一応みんな若い頃に指摘するんですよ。でも物の道理がわかってくると、アレこそが良かったとなるんですよ」


吉川 「どういうこと? 話が複雑すぎてよくわからないんだよ」


藤村 「だから実写映画化されるキャラの髪型が原作のキャラの髪型と違うんですよ」


吉川 「それはどうでもよくない?」


藤村 「ちょっと救世主様! どうでもいいってことはないでしょ。こっちは原作を穢してほしくないという愛しかない動機で石を投げてるんですよ」


吉川 「まず石を投げるのをやめよう。そこから話をしたらどうかな?」


藤村 「いや無理ですね。だって髪型が違うんだもん」


吉川 「そんなに? 石投げるほどのこと?」


藤村 「だってそのキャラの髪型に対して思い入れのある人は多いんですよ? 小さかった頃にあの髪型に憧れた人がどれだけいたか」


吉川 「そうなの? どういう髪型なの?」


藤村 「これですけど」


吉川 「これ? なにこれ? どうなってるの? これ、物理的にこうはならないでしょ、重力あるんだから。これ別の角度はどうなってるの?」


藤村 「別の角度はこれです」


吉川 「んん? おかしくない? ここに出てた出っ張りはどこに行ったの? 違う形になってない?」


藤村 「そこがいいんですよ! この髪型こそがこのキャラのアイデンティティなんですよ」


吉川 「いや、これはさすがに実写では無理じゃない? 整合性があってないから」


藤村 「別に我々は実写映画化をするなと言ってるわけじゃないんです。やるからには愛を持ってやれと。このキャラの髪型を尊重しろと、そう言ってるんです」


吉川 「でもそれは一休さんに因縁ふっかける将軍と一緒じゃない?」


藤村 「愛があればできるはずなんですよ。救世主様だって愛を説いて回ってるわけでしょ?」


吉川 「そうだけど、こっちに振らないで。その愛とちょっと違う気がするから」


藤村 「じゃ、救世主様もこれ、石持って投げてください」


吉川 「いや、投げるなって言ってるんだよ。そもそも石を投げない形で意見表明しなさいよ」


藤村 「他にやり方なんてあります?」


吉川 「原始人かよ。あるでしょ。なんで石オンリーしか手段がないの」


藤村 「別に髪型だけやればいいって話でもないんですよ。あくまで髪型は一例であって、最終的には愛なんです」


吉川 「結局実写映画化が嫌なんじゃないの?」


藤村 「嫌ではないですよ。むしろ公然と石を投げる機会を与えてくれるんだから大歓迎ですよ」


吉川 「石の投げたさが勝っちゃってるじゃん。もう愛ですらない」


藤村 「ほぅ、救世主様は実写映画化賛成派ですか。おーい、みんなー!」


吉川 「や、やめ……」



暗転



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