整体
藤村 「あぁ! なるほど……っ!?」
吉川 「凝ってますか?」
藤村 「普通ですね」
吉川 「あ、普通。そうですか」
藤村 「あと腰の方も痛いんでしたっけ?」
吉川 「はい。結構座り仕事で」
藤村 「おぉ、これはーっ!」
吉川 「凝ってます?」
藤村 「普通ですね」
吉川 「普通。特に凝ってはない?」
藤村 「凝ってないことはないけど、このくらいならざらにいますね。普通、普通」
吉川 「そうですか。肩の方もね、結構」
藤村 「そうですか? ここ? おや? これは……」
吉川 「凝ってます? やっぱり」
藤村 「普通です」
吉川 「普通! そうですか」
藤村 「普通が一番いいんですよ? 凝ってる方がまずいんで」
吉川 「そうなんですけどね、変な話。せっかくこういうところに来たら凝ってるって言われたほうがちょっと嬉しいような」
藤村 「凝ってないほうがいいと思いますよ」
吉川 「それはわかるんですけど、やっぱり来た甲斐があったなと実感したい気持ちがありまして」
藤村 「そうですか。じゃあちょっと大げさにリアクションした方が満足度が高いですかね?」
吉川 「なんかそうお願いするのも恥ずかしいんですが」
藤村 「大丈夫です。私どもは身体もそうですけど心の方もほぐしたいと思ってますから」
吉川 「そうですか。じゃ、ちょっとやってみてもらえます?」
藤村 「はい。いきますよ? おぉ! これはまずいですね。よくこの状態で生活できましたね? 大変だったでしょう?」
吉川 「それそれー! そういうの言って欲しかった。そうなんですよ。もう凝っちゃって大変で」
藤村 「うっわぁ、これはひどい。ちょっとここまでの方は見たことないですね。写真撮ってもいいですか?」
吉川 「ふふふ、嬉しい。しみじみ嬉しい。神対応ですね。来てよかったー」
藤村 「ちょっ、なんだこれ? 気持ち悪っ! もう触りたくない!」
吉川 「ん? ちょっと風向き変わってきたな」
藤村 「うっわ、表面もヌチョヌチョしてるし。これはひどい。臭っ!」
吉川 「あ、待ってください。ちょっとやりすぎです。というか、それは普通に傷つく。臭いのは違うじゃないですか。凝りと別の軸じゃないですか?」
藤村 「すみません。ついついエスカレートして本音が漏れてしまいました」
吉川 「本音なの? ヌチョヌチョしてる? 家出る時はそんなんじゃなかったけど」
藤村 「当院には色々な事情を抱えたお客様が来るので、なるべく驚いたりせずに冷静に対処してたんですが、お客様が大げさなリアクションを望まれたので、つい」
吉川 「そうだったんですか。せっかくの配慮に気づかずすみませんでした。普通でいいです」
藤村 「ただこれは真面目な話なんですが、このまま放置するとよくないです」
吉川 「本当ですか?」
藤村 「できることならすぐにでも帰ってもらいたいです」
吉川 「え、帰る? 治してもらえないんですか?」
藤村 「ここでできるのは対処療法といいますか、寿命をちょっと伸ばすことはできますが、根本的な部分までは手が出せないんですよ」
吉川 「寿命? 寿命の話まで出てきた? そこまで?」
藤村 「なるべく早く治療費をお支払いいただかないと、その前に死なれても困るんで」
吉川 「そんな数分単位で? 凝りとかじゃなくて?」
藤村 「凝りは凝りなんですけど、もう危ういですね。私も自分の身が可愛いので」
吉川 「なんだよそれ。そんな言い方なくない? ちゃんと責任持って施術してくださいよ」
藤村 「これ以上はちょっと勘弁してください。もう二度と来ないでください」
吉川 「そこまで!? 一体どういう状態になってるの?」
藤村 「端的に言えば、腰に爆弾を抱えてる感じです」
暗転
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