救助

藤村 「そんな中、人命救助に寄与されました。ここに感謝の意を表します」


吉川 「謹んでお受けいたします」


藤村 「いやぁ、しかしとても素晴らいいことです。聞けばまだ高校生だというじゃないですか」


吉川 「はい」


藤村 「前途有望ですね。普通高校生といえば、クワガタにちんちん挟ませたらどうなるだろうとか、そういうことばっかり考えてるはずなんですよ」


吉川 「それは普通じゃないと思います」


藤村 「私はそうでした。そうだよね? ほら、我が署の者たちはみんなそうだったと言ってます」


吉川 「あんまり周りにもいないと思うんですけど」


藤村 「普通はそうなんですけど、きちんと人命救助をする判断力が素晴らしい」


吉川 「ありがとうございます」


藤村 「普通なら人が倒れてたら写真を撮ってSNSに上げてバズろうと考えるところですよ」


吉川 「そんなことしませんよ」


藤村 「普通の若者はバズりたくてしょうがないんだから。飲食店で迷惑行為をやったりするんだから」


吉川 「そこを普通と思わないでください」


藤村 「普通なら助けませんよ、人なんて。無関係なんだし。しかも相手は老人。若者を苦しめるこの国の癌ですよ。それを助けるなんて普通はできませんよ」


吉川 「しますよ。見殺しにしろってことですか?」


藤村 「普通はね。普通はしますよ。なんだったらとどめを刺すくらいのことはしてもおかしくないですよ」


吉川 「それはおかしいでしょ。殺意じゃないですか」


藤村 「普通はそうするところを、人命救助した。これがもう素晴らしい。考えられない。普通はそのくらいの年なら、ザリガニにキンタマ挟まれたらどうなるとかしか考えてないはずなんですよ」


吉川 「一回も考えたことないですよ。なに、そのIQ6の思考実験。すべての高校生がそんなこと考えてると思ってるんですか?」


藤村 「普通はね。普通はそうするところをあなたはしないからえらいという話ですよ。見ず知らずのおじいさんを見捨てずにね。本当にすごいです」


吉川 「当たり前のことをしたまでです」


藤村 「いやいや、なかなかできることじゃないです。普通は無理です。その証拠にもう昨日からあなたを引き合いに出して『若者がこんなにすごいのに警察は一体何をやってるんだ』という抗議がひっきりなしに来てますよ。すごいことです」


吉川 「それはなんかすみませんでした」


藤村 「いいんです、いいんです。普通はできないことですから。たとえ警察といえども、普通はジジイが死にそうだったら様子見ますよ」


吉川 「警察はダメでしょ、それは」


藤村 「普通はバレないようにちょっと隠れて様子を見ますよ。なんせ相手はこ汚いジジイなんだから」


吉川 「いや、相手を見て選んだりしないでしょう」


藤村 「そこがすごい。子供や可愛い犬や巨乳のお姉ちゃんならともかく、ジジイなのに助けたというのがえらい。ひょっとして見間違えて助けちゃった?」


吉川 「わかってて助けましたよ! 助けたあとに『しまった! ジジイなら助けなきゃよかった』とか思わないでしょ」


藤村 「普通はそう思いますけどね。なんだったら誰も見てないこと確認してリリースしますけど」


吉川 「なんで一旦助けたのリリースするんだよ。外道釣っちゃったわけじゃないんだから」


藤村 「周りから浮いてるとか言われない? 友達とかいる?」


吉川 「いますよ! 人助けするようなやつは変わり者って決めつけ過ぎでしょ」


藤村 「いやいや。みんながそんな風に人命救助をするようなら、あなたにも感謝状なんて出しませんよ。普通はしない。はした金くらいじゃしたくない」


吉川 「民度が低い! そういう人が増えるような社会にしていきましょうよ」


藤村 「まぁ今回は感謝という形で終わらすけど、もう二度とこのようなことのないように。軽率は行動は避けてください」


吉川 「言い方が警告!」



暗転

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