スカウト

藤村 「こんにちはー。私いまスカウトさせてもらってるんですが、ちょっとお時間よろしいですか?」


吉川 「え? なんですか? スカウト?」


藤村 「はい。Vtuberってご存知ですか?」


吉川 「あの、バーチャルユーチューバーっての?」


藤村 「ご存知ですか! それなら話が早い。実はそのVtuberをスカウトしていてですね。もしご興味があったらと思いまして」


吉川 「え? そういうのスカウトでやるもんなの? なりたい人なんていっぱいいるんじゃないの?」


藤村 「はい。それはもう今大人気で、なりたい人だけでデスゲームを何回も開けるくらいなんですけど」


吉川 「デスゲームに参加させるなよ。それはまた趣旨が違うだろ」


藤村 「ですが、これはと思った方はやはりこちらからお声掛けしたいと思いまして」


吉川 「なんで俺なの? 他にもいるでしょ。他の人と何が違ったの?」


藤村 「やはりVtuberですから、パソコンに詳しそうだなと思いまして。メガネも掛けてらっしゃいますし」


吉川 「そこ? そこのみ? あ、あの人メガネだからスカウトしようって思ったの? いるだろ、他にもメガネの人」


藤村 「いやいやいや、メガネの人はほぼ絶滅してますから」


吉川 「してないよ。俺の職場にだって結構いるよ。なんか怪しいな」


藤村 「ご心配なのはわかりますが大丈夫です。うちは前科があっても全然構いませんから」


吉川 「なんでだよ。ないけどな、前科は。なんで前科ありそうって思ったんだよ。失礼だろ」


藤村 「もし反社の方でも他のところはダメかも知れませんが、うちの事務所はうまいことやりますんで」


吉川 「逆に怖いだろ。そんなところ。反社でもないけど! 反社受け入れそうなこと売りにするなよ」


藤村 「誰彼構わず傷つけるナイフみたいな人でも全然平気ですから」


吉川 「よくそんなやつと一緒に仕事しようと思うな。俺は普通だよ!」


藤村 「あ、普通! 普通というと、トイレットペーパーを使う時はだいたい80cmくらいってことですか?」


吉川 「なんだよ、その普通の基準。そのくらいだと思うけど、普通の人間の定義をそんなところでジャッジするやつおかしいだろ」


藤村 「いえいえ、うちの事務所には6cmくらいでもいける者もいますから」


吉川 「いけないだろ! 折り返せないだろ、その短さじゃ。薄くて浸透しちゃうよ色々」


藤村 「どうやってるのかはさすがに聞き出せませんでしたけど、6cmでいけるそうです」


吉川 「そりゃそうだろうな。そもそも話題に出すなよ、そんなこと。何cmだっていいだろ」


藤村 「そうですね。でもVtuberも結局は個性ですから。とんでもないブサイクでも大丈夫です」


吉川 「言うなよ、そういうこと。いちいち失礼なんだよ」


藤村 「太ってようが、痩せてようが、毛が薄かろうが、踵がコチコチだろうが、なんでも大丈夫です。バーチャルの可能性は無限大ですから」


吉川 「それだけネガティブな言葉並べた後で希望に溢れた言葉言っても全然フォローしきれてないんだよ」


藤村 「逆になにが引っかかってます? Vtuberの。風呂に入らなくても平気なんですよ?」


吉川 「色々引っかかるだろ。少なくとも風呂のことじゃないよ。風呂に入らないことアピールに使うの斬新すぎるな。嬉しい要素じゃないだろ、それは」


藤村 「ここだけの話、色々露出しても大丈夫です。バーチャルなんで。出し放題です」


吉川 「今まであなたのところの人、その言葉で揺れたの? 『え、出していいんですか?』って前のめりになるやつの仲間になりたくないよ」


藤村 「そこまであからさまに拒絶されるとは思いませんでした。変わった人もいるもんですね」


吉川 「流れからしたら変わってないと思うけどな! それで食いつく人の方がおかしい」


藤村 「わかりました。じゃあVtuberの方は諦めるとして、デスゲームの方はどうですか?」


吉川 「同時開催するなよ!」



暗転

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