料理番組

吉川 「簡単時短クッキング、本日の先生は料理研究家の藤村先生です。藤村先生、よろしくお願いします」


藤村 「よろしくお願いします」


吉川 「さぁ、今日の献立はなんでしょうか?」


藤村 「本日はナスとブロッコリーのシャキシャキスープと、レンジで作る山芋と卵のふんわりオムレツです」


吉川 「はい。ではさっそく……」


藤村 「はい。こちらが完成したものになります。では早速お味見の方をしてみましょう」


吉川 「あの、先生。過程が。過程がないんですが」


藤村 「なんやかんやありまして……、こちらが完成したものになります」


吉川 「だからなんやかんやの部分を見せていただけないかと、料理番組なので」


藤村 「でも見たことあるでしょ?」


吉川 「見たことはあるよ! 料理番組の過程はだいたいみんな見たことあるよ! 野菜を切るの初見ですって人はあんまりいないよ! 見たことあるそれを改めて見たいんだよ!」


藤村 「なら過去のアーカイブかなんかで……」


吉川 「違うじゃん。料理は毎回じゃん! 過去のアーカイブの材料で作れるわけじゃないんだから。今回のは今回の分の作業を見たいわけ!」


藤村 「またやるの面倒くさくないですか? 完成品がここにあるのに」


吉川 「そうだけど! 見せることが趣旨だから! 料理番組なんで」


藤村 「レシピの方はサイトに掲載されております」


吉川 「やりましょうよ。ここで。一つ一つ」


藤村 「簡単時短クッキングと聞いたからオファー受けたんですけど」


吉川 「番組自体が簡単時短を目指してるんじゃないんですよ。クッキングの部分で簡単時短をやって欲しいんです」


藤村 「説明を交えるのが面倒くさいんで簡単時短じゃないですよね、それは」


吉川 「あなたはそれが仕事でしょ? 面倒くさがらないで!」


藤村 「わかりました。でははじめにナスですね。食べやすい大きさにカットして水にさらしておきます」


吉川 「水にさらした方が良いんですか?」


藤村 「はい。アクが抜けますので、10分程度で結構です。あんまり長く水につけておくと栄養素などがでてしまうので、さっと10分。では計りましょう」


吉川 「はい」


藤村 「……」


吉川 「……」


藤村 「……」


吉川 「え? この間になにを?」


藤村 「10分さらしておきます」


吉川 「まさか待ってるの? 10分を? ここは端折っていい場所でしょ」


藤村 「では完成したものがこちらになります」


吉川 「途中が! 途中が一切ないんだよ! 10分さらしたものを用意してよ」


藤村 「急に言われても10分たたないと用意できないんで」


吉川 「最初と最後しかないじゃん。中身が重要なのに!」


藤村 「今どきそういうのありえないですよ。映画だって倍速で見る時代ですから。なるべく低コストでインプットした方が喜ばれます」


吉川 「食事をインプットって言うなよ! ロボだよ、それはもう! 他にやることあるでしょ。もう一品の方は?」


藤村 「完成品がこちらになります」


吉川 「これはもう映画で言うエンドロールなんだよ。本編を見せてくれよ。本編あってのエンドロールなんだから!」


藤村 「でもこれは材料を混ぜてレンジに入れるだけなんで」


吉川 「それ! 材料を混ぜるところが見たい! そこがみんな見たいの!」


藤村 「本当に? 何度も見たことがあるのに? 特に面白くもないですよ?」


吉川 「面白さを求めてるんじゃなくてさ。そういうものじゃん、料理番組って。手順を一つ一つ説明してさ」


藤村 「わからないです。だって知ってるでしょ? 混ぜ方がわからない人います? 混ぜようとすると骨折しちゃうんです、みたいな人。それはもう病院で診てもらった方がいいですよ」


吉川 「わかってるんだよ。わかってるけど見たいの。見ないと落ち着かないの」


藤村 「映画の名場面集みたいなものですか?」


吉川 「それとはちょっと違うと思うけど、それで納得するならそれでいいですからやって!」


藤村 「ではクライマックスのシーンを見せましょう」


吉川 「お願いします。やってください」


藤村 「レンジに注目してください」


    チーン!


吉川 「そこクライマックスなの!?」



暗転

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