疑惑

吉川 「でもそうなると、他に考えられるのは……」


藤村 「ん? ちょっと待って。ひょっとして俺のこと疑ってる?」


吉川 「いや、そういうわけじゃないんだけど」


藤村 「そういうわけじゃないんだけど、なんだよ?」


吉川 「違うよな?」


藤村 「おい、まじかよ。俺を疑ってるの? この俺を?」


吉川 「いや、悪い」


藤村 「ハァ……。まさかお前に疑われるとは思わなかったわ」


吉川 「違うんだよ」


藤村 「違くはないだろ? 実際に誰がどうしたとか、そんなことはどうでもいいんだよ! お前が俺を疑ったということに対して俺は失望してるの!」


吉川 「そうだよな。疑って悪かった」


藤村 「俺だぞ? 前にお前が人狼だった時、最後までかばったのは俺だぞ?」


吉川 「あぁ、うん。それはそうだけど」


藤村 「絶対にお前は人狼じゃないって信じてたから!」


吉川 「でもあの時、お前が人狼だったじゃん」


藤村 「それとこれとは話が別だろ? かばったという事実だけを考えろよ」


吉川 「いや、それを引き合いに出されても」


藤村 「じゃあわかった。あの時は? お前がマスクにちん毛をつけてきた時。周りのみんなにからかうなって一喝したのは俺だぞ?」


吉川 「ちん毛じゃなかったけどな! あれはちん毛じゃなかったよ」


藤村 「でも俺が言わなけりゃなんて言われてたか」


吉川 「お前が割と広めてたんだよな。変な風に言って」


藤村 「変な風ってなんだよ。吉川のマスクにちん毛がついてたけど、そういうのをからかうなって言ったんだよ」


吉川 「だからちん毛じゃなかったんだよ。あのただの毛をちん毛と喧伝したのはお前だよ」


藤村 「俺がからかうなと言わなければ、みんなどうなってたと思う?」


吉川 「みんな気づかなかったし、ましてやちん毛だとも思わなかったと思うよ」


藤村 「時間の問題だよ、それは。いずれちん毛エフェクトが起きることになってた」


吉川 「既定の言葉みたいに言うなよ。なんだよ、ちん毛エフェクトって。マスクに毛がついてることくらい、それほど珍しくはないだろ? それをわざわざちん毛がついてるって言い方で広めたのお前だよ」


藤村 「そう言うしかなかったじゃないか!」


吉川 「しかなくないよ。ちん毛って言わなくていいんだから。毛がついてるって普通に言ってくれれば」


藤村 「もうあの時点で何人かはちん毛だと思ってたんだよ。だから俺はしかたなく」


吉川 「いいよ、もう。あの時の話は」


藤村 「そんな俺を、疑ったんだぞ?」


吉川 「なんか思い出したら、疑ったことが悪いと思えなくなってっきた」


藤村 「どういうことだよ? しょうがない。あの時のこと話すか。お前がマッチングアプリで会った娘とさ。あ。やっぱいいいや。なし」


吉川 「なんだよ、なしって」


藤村 「いいよ。やっぱり、言うべきじゃない」


吉川 「なんかやってたの? あの時」


藤村 「なにが?」


吉川 「そこまで言ってなかったことにはできないよ? なに? 教えてよ」


藤村 「別に俺はお前を傷つけたいわけじゃないんだよ」


吉川 「聞いたら傷つくことなの? それをしてたの?」


藤村 「なんでそうやって暴き立てようとするんだよ。いいだろ、別に。知らなきゃ誰も傷つかないんだから」


吉川 「そういうこと言われて『わかった。傷つかなくてよかった~』って選択肢ある?」


藤村 「そういう問題じゃない。お前が俺を疑ったという事実に対して俺は異議を申し立ててるだけなんだよ!」


吉川 「いや? さっきとは状況が違うよ? もう結構疑惑は濃厚になってるよ?」


藤村 「は? どういうこと? 俺を疑ってるということ?」


吉川 「だって言わないもん。少なくとも隠してることはあるんだろ?」


藤村 「隠してることは少なくはないよ!」


吉川 「多いの? 0か1かの問題で争ってるところに100を出す神経どうなってるの?」


藤村 「だから隠してるってことに関してはそれなりの理由があるんだよ。わかるだろ、それくらい」


吉川 「わからねえよ! こっちが疑ってるんだから潔白を示すなら言えよ」


藤村 「言ったら怒られるだろ?」


吉川 「それはもう自白だよ!」



暗転

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