だな
吉川 「シミュレーションゲームで為政者になるとさ、攻略のために効率的だけど、市民にとってはたまったもんじゃないプレイとかしてしまうじゃん? それを考えるとこの国の政治家も無能なわけではないと思うんだよ。ただ人でなしなだけで」
藤村 「だな」
吉川 「本来、市民の不満度が上がると暴動やデモが起きてマイナスな要因になるから避けるべきなんだけど、なぜかこの国はバグなのか仕様なのかどれほど不満度が上がっても治安も悪化しないし」
藤村 「だな~」
吉川 「だから政治家を無能だと判断するのも間違いで、効率を考えるとそうなっちゃうシステムの問題だと思うんだ」
藤村 「だな」
吉川 「あのさ、さっきからその相槌気になるんだけど」
藤村 「相槌?」
吉川 「『だな』っての。最小のカロリーで最大の効果を得てないか? 『だな』の一言でお前が言う前から俺も同じことを考えていた感が出てる」
藤村 「だな」
吉川 「ほら! やめてくれない、それ」
藤村 「でも本当にそうだから。俺も同じこと考えてた」
吉川 「それにしてもさ、もうちょっとこっちの話甲斐がある相槌ってない? 同意するにしてもさ」
藤村 「一緒じゃない? 『わかる』とか言って欲しいの?」
吉川 「まだ『わかる』の方がいいな。なんか『だな』はさ、俺の意見の前にすでに考えてた感が出てるじゃん。『わかる』は俺の意見を受け止めた上で同意の感じがするじゃん」
藤村 「でも『だな』って思った時の言葉は『だな』じゃない?」
吉川 「『だな』はスラングでしょ。『そうだな』の短縮形でしょ! その気安いスラング感がバカにされてるようで抵抗があるんだよ!」
藤村 「バカにはしてない」
吉川 「そうだろうけど!」
藤村 「受け止める側の心の問題では?」
吉川 「直接患部に刺激を与えるタイプの指摘をしないでくれよ。もう少しじわじわ浸透させてくれない?」
藤村 「もし同意してても遠回しに言えばいいのか?」
吉川 「そっちの方が俺の意見を一旦受け止めて解釈して投げ返してくれる感があるじゃない」
藤村 「わかった。それでいくからなにか言ってみて」
吉川 「急に言われてもな。だからさっきの続きだけど、俯瞰してみたら効率的とはいい難いが市民の感情に寄り添った選択をするセンスみたいなものが問われると思うんだよ」
藤村 「貴殿の言われることはまさに私のビジョンにも一致し、本件についてはビジョン・ミッションに沿った視点から検討し、我々のコアバリューに合致するかどうかを十分に検討いたしました。そして、貴殿のご提案については、様々な環境での優位性を鑑みつつ、戦略的な観点から詳細な検討を要すると考えます。しかしながら、貴殿のご意見には大いに価値を認めており、我々とのマインドセットには調和があり、シナジー効果が期待できると考えます」
吉川 「ダメだそれは! 一個も入ってこない! なんなの? どういう意味の意見なの?」
藤村 「『だな』って感じの」
吉川 「『だな』が最低だと思ってたけど、さらに下があったのか。よくそこまで『だな』を引き伸ばしたな。金箔でもそこまで伸びないよ。お前は『だな』にそんな魂を込めてたの?」
藤村 「だな」
吉川 「むかつく。むかつくけど、それを否定したらさっきの呪文が来るのか。もっと普通の相槌ない? なんだったらちょっとピントが外れててもいいくらいで」
藤村 「で?」
吉川 「それはそれでむかつく! 『だな』が最小カロリーかと思ったらそこから50%オフしてきたじゃん。そんなことある? しかも『だな』の時にあった同意してくれる感じがない。拒絶感すらある」
藤村 「かなぁ?」
吉川 「もう勘弁してくれよ」
暗転
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます