タリアン

吉川 「このあとどこかご飯でも行く?」


藤村 「あー、でも俺ちょっと……」


吉川 「予定ある?」


藤村 「予定はないんですけど、ちょっと主義で食べれないものとかあって」


吉川 「あぁ。ベジタリアンとか? いいよ別に。店選べば」


藤村 「大丈夫ですか?」


吉川 「肉が食べられないの?」


藤村 「いや、肉は食べられるんです。シミタリアンなんで」


吉川 「シミ? え? なに? シミタリアン?」


藤村 「そうです。シミタリアン」


吉川 「ご存知ですよね的な感じできたけど初めて聞いた。あるんだ、シミタリアンての。何が食べられないの?」


藤村 「基本的に自分でお金を出して食べられないんです」


吉川 「ん? どういうこと?」


藤村 「他人のおごりなら食べられるんですけど、自分で払うのはちょっと」


吉川 「しみったれやん! それは食事に関する主義とかじゃないよね?」


藤村 「シミタリアンなんです」


吉川 「だからしみったれだろ。おごられようって考えてるだけだろ」


藤村 「あとあんまり安いものも食べられないんです」


吉川 「なんでだよ! おごりなんだから文句言うなよ」


藤村 「いや、どうせ人の金で食うならいいもの食べたいし」


吉川 「図々しいな! しみったれのくせに!」


藤村 「でもそれでもいいと誘ってくれたんで今日はお供しようと思います」


吉川 「自分では出さないんだろ?」


藤村 「出すわけないじゃないですか」


吉川 「なんで自信持って言い切ってるんだよ。出すわけあるだろ別に。出してもいいんだよ」


藤村 「シミタリアンなんで理解してもらわないと」


吉川 「理解ってなんだよ。別にそこまでして一緒にご飯行きたいとも思ってないよ」


藤村 「あ~あ。やっぱり日本て単一民族の国だから多様性とかに理解が乏しいんだよなぁ」


吉川 「違うだろ。なんで意識が遅れてるみたいな感じで言ってるんだよ。多様性の問題じゃなくない? おごられたいのはお前の欲だろ?」


藤村 「しかたないか。世界から物笑いの種になっていても気づかないんだろうな」


吉川 「どっちかというと笑われるのお前の方じゃない? シミタリアンとか主張して。おかしいだろ」


藤村 「グローバルな視点で見れば、人と違うことこそスタンダードなんですよ?」


吉川 「正当化しようとする理屈が鬱陶しいな。せめてご馳走してくださいって頭下げるとかできないの?」


藤村 「シミタリアンなんで、上とか下とかそういうのじゃないんです」


吉川 「シミタリアンなんでっていう理屈は通らないんだよ。俺だっておごってもらえるならそっちの方がいいよ」


藤村 「え? なります? シミタリアン」


吉川 「なりますっていってなれるものなの? 自称なんだろ」


藤村 「一応勉強会はあります」


吉川 「あるの? 世界でお前だけが言ってるわけじゃないの?」


藤村 「偏見がすごいですね。ベジタリアンも世界で一人だけが言ってると思ってます?」


吉川 「いや、ベジタリアンはよく聞くもん。別にそういう主義の人なんだろ」


藤村 「シミタリアンもそうです」


吉川 「いや、だから! そもそもどんな理念でやってるんだよ、シミタリアンは?」


藤村 「他人の金でたらふく食べたいなぁという思想が元ですね」


吉川 「それは思想じゃなくて欲望なんだよ!」


藤村 「ベジタリアンの肉を食べたくないのだって似たようなものじゃないですか?」


吉川 「やめろよ! そういうセンシティブな部分に踏み込むなよ! 多分もっといろいろ言い分はあるんだよ。よく知らないけど」


藤村 「ベジタリアンは尊重してるじゃないですか? ものすごい高い店に行きたがるベジタリアンよりもシミタリアンの方が支払い総額は少ないかもしれないのに」


吉川 「お金の問題でもなくてさ。おごられるのが当然と思ってるお前のその態度が問題なんだよ」


藤村 「肉食わないのが当然と思ってる人よりもですか?」


吉川 「ベジタリアン持ち出すのやめてくれない? 一緒の世界観じゃないでしょ」


藤村 「私にとっては一緒ですけどね。まったくご理解いただけないようで。いいですよ、差別主義者には慣れてますから」


吉川 「言い掛かりやん!」



暗転

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