友人代表

藤村 「ご紹介に預かりました。笹咲の友人の藤村です。おめでたい席ではありますが、この場を借りて一言言いたい。笹咲は大馬鹿野郎です」


吉川 「おいおい、何を言い出すんだ」


藤村 「私と笹咲は中学生の頃からの付き合いです。あれは私と笹咲が高校時代、私は母子家庭で家庭の事情により大学進学を諦めてました」


吉川 「あー。これ絶対泣いちゃうやつだ」


藤村 「大学を諦めると告げると笹咲は怒鳴りました。そこからは大喧嘩です。そして笹咲は骨折。全治4ヶ月だったそうです」


吉川 「え? 本当にただ大馬鹿なエピソードで来るの?」


藤村 「そこで喧嘩別れしたと思ってたのですが、実は笹咲は私の進学費用をカンパで集めてたのです」


吉川 「やっぱりいいエピソードだ」


藤村 「ただ、私も笹咲も人見知りだったために集まったカンパは総額で2400円でした」


吉川 「なんでそのキャラでカンパ募ろうと思ったんだよ。友達いるやつがやることだろ」


藤村 「そのことを告げられた時、私は喧嘩していたことも忘れて大笑いしてしまいました。でもその気持ちが私を動かしたんです」


吉川 「あー、泣かしにかかってきた」


藤村 「挑戦する前に諦めてどうする。そう思った私は大学を受験する決意をしました。結果、残念ながら全然点数が足りず不合格でしたが満足感はありました」


吉川 「バカで落ちてるんじゃねーか。最初に家庭の事情って言ったのなんだったんだよ」


藤村 「でもそんな時にも、笹咲は隣りにいてくれました。彼も落ちてたからです」


吉川 「そのまんま大馬鹿なエピソードしか今のところ来てない」


藤村 「私は掛け算の7の段が苦手だったけど、あいつは4の段でもうあやかしかった。4×7=26って言ってました」


吉川 「どっこいどっこいのバカじゃねーか」


藤村 「カンパで集めた2400円ですが、競艇で増やそうと言い出したのも彼でした」


吉川 「泣けるどころか、場にそぐわないエピソード目白押しだな」


藤村 「皆さん競艇はやったことあるでしょうか? あれはスタート10秒でほぼ順位が確定してしまうんです。私と彼はなけなしの2400円を賭けて、そして10秒で負け、ただただボートが走ってるのを見つめただけでした」


吉川 「このエピソード話す必要あったか?」


藤村 「そして笹咲は『このままじゃ帰れない』と言い出し、勝手に家から持ち出した金までつぎ込んで惨敗してました」


吉川 「最悪じゃん。親も来てるんだろ、ここに」


藤村 「あの時の光景は忘れません。日差しが水面に反射して彼の顔を輝かせていました。そして先週競艇しに行った時、ふと思い出したのです。彼のあの顔を」


吉川 「シチュエーションがクズっぽくて感動を妨げてるな」


藤村 「なぜ思い出したのかというと、実際にそこに笹咲がいたからです。また惨敗してて笑いました」


吉川 「もう誰か止めたほうがよくない?」


藤村 「笹咲は『ご祝儀入るから大丈夫大丈夫』と言ってたので帰りに奢ってもらいました」


吉川 「完全にピリ付いた空気になってるけど?」


藤村 「こんなエピソードもあります。私の母が膵臓を悪くして入院しました。私にとってはかけがいのない母ですが、笹咲にとっては赤の他人です。なのに彼はずっと病気のことを調べてたんです」


吉川 「やっといいエピソードになるのか」


藤村 「そして彼は一人で悩んでた私に教えてくれました。『すいぞうって水臓じゃなくて難しい字なんだよ』と」


吉川 「バカの結界が強すぎて全然いいエピソードにたどり着かない」


藤村 「でもその後に彼が言った言葉に私は救われました」


吉川 「やっと来るか?」


藤村 「『臓器ってすごい高く売れるんだって』と」


吉川 「バカの濃度が濃すぎる。お前もそれで救われてるんじゃないよ! 最悪だよ」


藤村 「そんな風に、私が行き詰まった時に笹咲はいつも近くにいてくれました。こいつは本当に愛すべき大馬鹿野郎です。お幸せに! ちなみにご祝儀は全部スッた。ごめんね」


吉川 「拍手一個も起きない!」



暗転

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