身代わり

藤村 「わかった。俺が身代わりになる」


吉川 「何を言ってるの? そんなことできるわけないよ」


藤村 「俺なら大丈夫だ。城東の狂い狼をなめるなよ?」


吉川 「でも、もしなにかあったら」


藤村 「なにもないよ。あんなやつらにやられる俺だと思うか?」


吉川 「そりゃ、藤村さんの強さは常識ハズレだけど。でもあいつらはボクの顔を知ってるんですよ? 藤村さんが行っても別人だってバレる」


藤村 「その点は抜かりない。こんな話を知ってるか? あるところに赤い頭巾を被った少女がいました」


吉川 「赤ずきんちゃん? その話の流れで出てくるタイトル?」


藤村 「ご明察。あの話を思い出せ。狼は、おばあちゃんに見事に化けるのさ」


吉川 「いや、結構すぐバレてると思います、あれ」


藤村 「いいや、バレてないね。狼の変装技術は完璧なんだよ。あれは赤ずきんのやつが妙な圧をかけた質問してくるから焦っただけで」


吉川 「相当怪しかったんでしょ。なぜ耳が立ってるの? みたいなのはもう全バレしてます」


藤村 「してない! バレてたら普通は食べられる前に逃げるから。赤ずきんちゃんは食べられてるんだよ。もう騙しきった。生前のおばあちゃんモノマネも完璧だった」


吉川 「そうなのかなぁ。……何の話でしたっけ?」


藤村 「この俺、城東の狂い狼こと藤村も狼の端くれ。ということは吉川に成り変わることだって余裕なはず」


吉川 「点と点が全然線にならない理論なんですが」


藤村 「ちなみに普段からインスタではJKになりすましてる。フォロワー5000人いる!」


吉川 「そのエピソード、あんまり自慢げに話さない方がいいと思います」


藤村 「それに吉川とは付き合いも長いからな。誰よりもお前のことは熟知してる。あんなやつらを騙すなんて毛づくろいするより容易いぜ」


吉川 「やや不安は残りますが、そう言ってもらえるなら」


藤村 「この吉川に任せるでヤンス!」


吉川 「ちょっと待ってください。なんですか、それ?」


藤村 「ふふふ。早速ビビったようだな。あまりの吉川の完コピぶりに」


吉川 「ボクそんなんじゃないですよ。ヤンスを言ったこと一度もない」


藤村 「こういうのはイメージだから。言ってるかどうかよりも言いそうかどうかの方が重要なんでヤンス」


吉川 「いや、言いませんよ。一生言わない。言いそうでもないでしょ。ヤンスが語尾に付く人間なんて現実にはいませんよ」


藤村 「そんなにまくし立てられたらビビってウンコ漏れそうでヤンス~」


吉川 「藤村さんの中のボクのイメージってそんなのなの?」


藤村 「俺がどう思ってるかじゃないんだよ。あいつらがお前に対して抱いてるイメージを俺は演じてるわけだから。あいつらはお前のことなめてるんだよ」


吉川 「そうかもしれないですけど、割とボクなりに毅然とした態度をとったつもりですが」


藤村 「お前の毅然なんて赤ずきんちゃんレベルだよ。まぁ任せておけよ。二度とお前に手出しできないようにしてやるから」


吉川 「何もかも安心できない。上手くいくビジョンが何も見えない」


藤村 「何も見えないでヤンス~」


吉川 「言ってないでしょ! そういうトーンでもなかった!」


藤村 「許して欲しいでヤンス~。なんでもするでヤンス~」


吉川 「わざと苛立たせようとします? いいですよ、もう! ボクが自分で行きます!」


藤村 「本当でヤンスか? そんなの命知らずでヤンスよ~」


吉川 「もうボクが行くんですから成り変わらなくていいです。やめてください!」


藤村 「違う違う。そこは行くでヤンスよ~。だよ」


吉川 「違くないですよ! 本人が言ってるんだから」


藤村 「バカ、そんなんじゃあいつらはお前のことを吉川だと気づかないぞ?」


吉川 「だったらそれで好都合じゃないですか。こっちだってあんなやつらの相手なんてしたくないんですよ」


藤村 「お、今のはちょっと吉川っぽかった。それでおしっこ漏らしてたら完璧」


吉川 「その完璧は目指してないんでヤンス!」



暗転

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