ジャッジ

吉川 「では審査委員長の藤村さん。今回のダンスバトル、栄えあるチャンピオンに輝くのはどっちのチームでしょうか?」


藤村 「え~と、大変悩みました。どちらも素晴らしいパフォーマンスで。はっきり言ってこのレベルになるともう甲乙をつけるとういことはできません。ですので、両者優勝ということで!」


吉川 「ええっ!? 両者優勝ですか?」


藤村 「はい。前代未聞のことですけど、両チームのパフォーマンスを考えるとこれしかありません!」


吉川 「なるほど。ちなみにそれぞれのチーム、どういう印象を持たれました?」


藤村 「はい。まず先行のマッチ・ポンチですけど、さすがの世界4連覇の実力を見せつけてくれましたね。高スキルでミスもなく安定して、しかもフレッシュな新技もふんだんに見せてくれました。お見事でした」


吉川 「はい」


藤村 「そして対するA・B・C・D・Eの皆さんですが、お疲れ様でした。なんとこれが初めてのバトル参加だそうで。そうは見えなくもない、遜色を見せてくれましたね。スキル的にはもう何も言うことはありません」


吉川 「何もなかったですか? あれで?」


藤村 「あれをスキルと言っていいのか、もうそれすら表現する言葉がないですね。あえて一言言うなら練習した方がいいと思います」


吉川 「そうでしたね」


藤村 「あと、途中で一人いなくなりましたけど、あれは……、救急車が来てたけど?」


吉川 「骨折だそうです」


藤村 「あ、骨折。そのあたりの意外性も含めて評価させてもらいました」


吉川 「評価につながったんですか? まぁ、お大事にして欲しいですけど」


藤村 「あとウンコ漏らしてる人いましたよね?」


吉川 「……はい」


藤村 「度肝を抜かれました」


吉川 「全員そうだと思います」


藤村 「ダンスバトルの審査を長くやってますが、今日新しい可能性に出会ったような気がします」


吉川 「あれに可能性はもうないと思いますが?」


藤村 「常々日本のカルチャーに足りないものがあるんじゃないかと思ってたんですが、もしかしたらあれがヒントになるんではないかと」


吉川 「絶対ないと思います。ウンコ漏らすのはカルチャーじゃないから」


藤村 「そうまでして表現したいという気迫、ビンビン伝わってきましたし、匂いも伝わってきました」


吉川 「二度とあってはいけない事態だと思いますけどね」


藤村 「あとクルーが一人足りなかったのは?」


吉川 「当日になって面倒くさくなったそうです」


藤村 「なるほど。そのようなアドリブが面白いですよね。瞬時に対応したのも素晴らしかった」


吉川 「対応したのは主にスタッフですね。大変でした」


藤村 「実はね、私も今日ここに来るのに面倒くさいなーと思ってたんですよ。そのあたりの表現したかったことが一致したというか。その手があったかと目を覚まされました」


吉川 「あなたはちゃんと来いよ。ギャラ払ってるんだから」


藤村 「最後スッとフェイドアウトしたのは私の長いダンス人生でも初めて見たムーブで大変フレッシュでした」


吉川 「あれは、もう無理だと思って諦めたんだそうです」


藤村 「やっぱりね。こう長くやってますと、もういい年なのにまだ夢見てるダンサーなんか多いんですよ。そういう人たちに対するカウンターのメッセージだったのかな、なんてね」


吉川 「例えそうだとしても初心者に言われたくないですよ」


藤村 「あとやっぱりよかったのが、彼らは私のユーチューブも見ていてくれてるみたいで。ダンスと関係ない激辛カップ焼きそば食べる回とか褒めてくれたのは嬉しかったです」


吉川 「せめてダンスに興味持てよ。あんたもなにやってんだよ!」


藤村 「そしてその時に受け取った焼肉屋のギフト券。しっかりと私の心に響きました。逆に言うとマッチ・ポンチの方はそういう心に響くものが足りなかったかなぁという気がします」


吉川 「賄賂で決まったんじゃねえかよ!」



暗転

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る