マルチリンガル

吉川 「よろしくお願いします」


藤村 「よろしくお願いします。吉川さん、ご無沙汰しております。オンラインレッスンは久しぶりですが変わりはありませんでしたか?」


吉川 「はい。大丈夫です。ただしばらくレッスン休んでたんでちょっと忘れてるかもしれません」


藤村 「ではまず取り戻すために少しずつ始めましょう。では基礎的な猫語会話になりますが」


吉川 「え? なんですか? すみませんもう一回」


藤村 「久しぶりのオンラインレッスンですので、基礎からということで」


吉川 「あの、基礎のなんて言いました?」


藤村 「猫語会話です」


吉川 「猫語会話? あれ? これ英会話じゃなくて?」


藤村 「あ、そっちでしたか。すみません。私の方でいくつか受け持ってるので混同してしまって。猫語会話は次の枠でした。では英会話ということで」


吉川 「ちょっとすみません。猫語会話っていうのがあるんですか?」


藤村 「はい。もちろん」


吉川 「それって、あの猫の言葉ってことですか?」


藤村 「え~と、他に猫語ってあるんですか?」


吉川 「こっちが聞いてるんですけど。その、いわゆるあの猫語を話すレッスンもあるんですか?」


藤村 「ありますね。では英会話を始めましょう」


吉川 「ちょっと待ってください。猫語会話が気になりすぎる」


藤村 「吉川さん、この時間ももうレッスンの時間に入ってるんですよ。雑談をするのはレッスンが終わってからまたの機会にしましょう」


吉川 「そうなんですけど。それはもうごもっともなんですが。全然知らない世界だったから。え、それって私も習うことができるんですか?」


藤村 「猫語会話ですか? はい。その枠を取っていただければ」


吉川 「えー! それで猫語が喋れるようになる?」


藤村 「吉川さん、気をせいてはいけせんよ。あなたは英会話の枠を取って何度目になりますか? まだ満足に喋れるようになったとは言い難い」


吉川 「確かに。返す言葉はないですけど、それは今後の頑張りということで。将来的には英会話のように猫語会話もできる可能性はあるということですよね?」


藤村 「可能性ということでいえばイエスですけど、人によるとしか言えませんし」


吉川 「そもそも藤村さんはどうやって猫語を喋れるようになったんですか?」


藤村 「いえ、私はネイティブだったので」


吉川 「ネイティブなの!? ネイティブってどういうこと? あるの、猫語のネイティブが。猫に育てられたの?」


藤村 「クォーターだったんですよ。母が日本人とアメリカ人とのハーフで」


吉川 「父は? 父の素性が気になりすぎる」


藤村 「まぁ、父のことはいいじゃないですか。あんまり人にいうような家庭の事情じゃないし」


吉川 「気になる! 家庭の事情以前の問題で種族が気になる! 家庭の段階でもそりゃ色々あるだろうけど」


藤村 「吉川さん、英会話の方はいいんですか? まったく始まらないですけど」


吉川 「だってそういうのがあるってこと自体知らなかったから。知ってたら英会話よりそっち選びましたよ」


藤村 「そっちというと?」


吉川 「猫語会話の方! だって猫と意思の疎通ができるんでしょ? 最高じゃないですか」


藤村 「私は正直、今あなたと意思の疎通ができなくて困ってます。言語は通じるはずなのに一向に授業に入らせてくれない」


吉川 「そういう意味じゃなくて。申し訳ないですけど。心がもう猫語にいっちゃってて。これ猫語会話に変更することってできますか?」


藤村 「別に構いませんが、英会話はどうなります? 久しぶりなのにやっておいたほうがいいんじゃないですか?」


吉川 「いえ、もう猫語優先で! 英会話はどうでもよくなりました」


藤村 「どうでもよくなりましたってのは聞き捨てならないんですが。できることなら継続して欲しいと思いますけど、猫語会話でよろしいんですね?」


吉川 「はい! 英会話よりも身を入れて頑張ります!」


藤村 「わかりました。では基礎の猫語会話からはじめましょう。本当によろしいんですね?」


吉川 「大丈夫です!」


藤村 「では私のあとに続いて同じように発音してください。『よろしくにゃん』」


吉川 「あ、やっぱり英会話でお願いします」



暗転

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